エンタープライズトレンドの読み方

21世紀の地図作り--ドローンvs伊能忠敬

飯田哲夫 (アマゾンウェブサービスジャパン)

2017-02-14 08:00

 ニューヨークのチェルシーにある現代アートのギャラリー「Bryce Wolkowitz」でフォトグラファーである西野壮平氏の個展が開催されている。「Bricolage」と名付けられた個展は、西野氏が訪問したさまざま都市をテーマとした写真群によって構成されている。

 一つひとつの作品は、パリや東京、ムンバイなど特定の都市を俯瞰した巨大なジオラママップとなっているが、それは小さな写真を切り取って貼り合わせたフォトモンタージュである。こちらを見て頂くと、少しイメージが湧くと思うが、ぐっと近くに寄らないとその面白さを実感するのは難しい。

 西野氏は、それぞれの都市に最長で3ヵ月程度滞在し、写真を撮りながら歩き回る。そのフィルムは数百本にもなるという。そして、西野氏はそれをプリントし、パネルに手で貼り付けてゆく。

 そこには、ランドマークとなる建造物があり、道が縦横に走っているが、西野氏の解釈に基づいて構成される、その俯瞰図は実際の街そのものの縮尺とは全く異なった、実にユニークなものとなる。西野氏の制作手法は、18世紀に徒歩による測量で日本地図を作り上げた伊能忠敬から着想を得たものであると言う。

 一方で、正確かつ最新の地図情報は、モバイルビジネス展開する上での重要なプラットフォームである。その構築にはGoogleをはじめとして多くの企業がしのぎを削るが、昨年末に報じられたBloombergの記事によると、Appleはその更新速度を速めるためにドローンの活用も検討しているという。

 徒歩で地を這うようにして地図を制作した伊能忠敬、そして現代の伊能である西野壮平氏とは大いに異なるアプローチである。

 伊能忠敬の地図は博物館でしか見られないかもしれないが、西野壮平氏の作品はニューヨークの現代アートギャラリーに展示されている。現代アートとは、現在に対する何らかの問題提起を孕んでいるからこそ現代アートである。

 デジタル化された正確かつ最新の地図情報さえあれば、われわれはどこの都市に行っても、もはや道に迷うことはない。一方で、われわれは肌感覚のある街並みも求める贅沢者でもあるようだ。

飯田哲夫(Tetsuo Iida)

アマゾンウェブサービス ジャパンにて金融領域の事業開発を担当。大手SIerにて金融ソリューションの企画、ベンチャー投資、海外事業開発を担当した後、現職。金融革新同友会Finovators副代表理事。マンチェスタービジネススクール卒業。知る人ぞ知る現代美術教育の老舗「美学校」で学び、現在もアーティスト活動を続けている。報われることのない釣り師

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