総務省が主催する「AIネットワーク社会推進フォーラム」が3月13〜14日の2日間にわたり、東京大学伊藤国際学術研究センター伊藤謝恩ホールで開催された。本記事では、そこで行われたパネルディスカッションの1つ「AIネットワーク化がもたらす便益の増進」についてレポートする。
東京大学大学院法学政治学研究科教授の宍戸常寿氏
このパネルディスカッションでは、「AIを構成要素とする情報通信ネットワークシステム」を意味する「AIネットワークシステム」の「構築」と、AI相互間の連携などAIネットワークシステムの「高度化」の双方を総称する概念である「AIネットワーク化」について語られた。
AIネットワーク化がもたらすリスクと便益のバランスをどう考えるべきかという問題のうち、主に便益の部分に焦点を当てて議論が行われた。最初にパネリストから、各々の専門分野に関して順番に発表がなされた。進行は東京大学大学院法学政治学研究科教授の宍戸常寿氏が務めた。
AIによるマッチングから機会と価値を生み出す
まず、マーク・デュラントン氏(フランス経済・財政省、原子力エネルギー委員会技術開発部門)が、フランスでの状況と論点を紹介。フランスでは、国内のAI関連の課題を取りまとめて国家戦略を作るための「FranceI.A.」という取り組みが1月から始まったという。人権の観点から、どういう条件でプライバシーや個人的なデータを守るべきかが課題になっているとのこと。
フランス経済・財政省、原子力エネルギー委員会技術開発部門 マーク・デュラントン氏
デュラントン氏「人とマシンがコラボレーションしているこの時代に、私達が直面しているのは信頼性の問題です。具体的には、セキュリティ、プライバシー、安全性という3つの障壁を越えなければなりません」
特に信頼が必要なのは、自動走行車やロボットの外科手術であるという。信頼を作るためには、設計する場で将来を予測する“プレディクタビリティ”そのものを入れていくこと、システムの透明性、現場におけるプライバシーを守るプロセスが必要だと指摘した。
続いて、中西崇文氏(AIネットワーク社会推進会議構成員、国際大学グローバルコミュニケーションセンター准教授)が「AIネットワークが人とどのように関われば幸せな社会が築けるか」をテーマに発表した。
国際大学グローバルコミュニケーションセンター准教授 中西崇文氏
中西氏によると、AIネットワークが構成されると、「実世界の事柄がデータとしてサイバーワールドに流れ、サイバーワールドにリアルワールドを俯瞰(ふかん)可能なコピーができる」という。その結果として、自動化や自立化による人間対機械の対立構造を招く方向性もあり得るが、需要と供給やニーズとシーズなどのマッチングをAIが担うことで、機会と新しい価値を生み出すという「共存」の方向性もあるのではないかと指摘した。
中西氏「サイバーワールドでの管理によってリアルワールドでのニーズをマッチングできるようになると、眠っているリソースを使うという、シェアリングエコノミーに当たる流れが生み出されます。ビッグデータ、アルゴリズム、ネットワークなどを用いて機会創出やコラボレーションを生み出し、創造性を増長させることが、新たな社会を作り出すことにつながるのではないでしょうか」