理化学研究所(理研)とIT大手3社がAI(人工知能)技術の共同研究体制を発表した。果たして、世界に渡り合える日本のAI技術を生み出すことができるか。
理研と東芝、NEC、富士通がAI技術の共同研究へ
理研とAI技術の共同研究を行うのは、東芝、NEC、富士通の3社。具体的には、理研が2016年4月に設立した「革新知能統合研究センター」(理研AIP)が3社とそれぞれに共同研究を行う「連携センター」を設置する。いずれも理研AIP内に設けられ、2017年4月1日から5年間のプロジェクトとしている。
理研AIPは、文部科学省が推進する「AI・ビッグデータ・IoT・サイバーセキュリティ統合プロジェクト」事業の研究開発拠点として設置され、とりわけAIでは革新的な技術を開発し、科学研究の進歩や実世界応用の発展に貢献することを目指す一方、その普及に伴って生じる倫理的・法的・社会的問題に関する研究や人材育成も担っている。
その理研AIPが3月10日に3社と共同で開いた発表会見では、東京大学教授で理研AIPセンター長を務める杉山将氏、東芝 研究開発センター長の堀修氏、NEC執行役員の西原基夫氏、富士通研究所 取締役の原裕貴氏が登壇。それぞれの連携センターで取り組む研究テーマについて説明した。その内容については関連記事をご覧いただくとして、ここではこの共同研究体制のあり方に注目したい。
左からNECの西原氏、理研AIPの杉山氏、東芝の堀氏、富士通研究所の原氏
今回のプロジェクトは、理研が2007年2月に整備した「産業界との連携センター制度」に基づくもので、理研の各センター内に連携センターを設置し、中長期的な研究課題に取り組む産業界との包括的な連携の場を提供するための取り組みである。これにより、理研は産業界との連携をさらに発展させ、理研と企業が共同で新分野を切り開く研究領域を育成し、理研と企業双方の文化を吸収した人材の育成を目指しているという。
二段構えの共同研究体制で世界に渡り合えるAI技術を生み出せ
共同研究体制のあり方として改めて注目しておきたいのは、理研AIPと3社による連携センターが個別に設置されることだ。したがって、「共同」といっても実際には理研AIPが3社と個別に研究を行う形となる。この体制だと、3社の研究テーマをそれぞれに追求することはできるかもしれないが、果たして、世界に渡り合える日本の最先端のAI技術を生み出すことができるのか。会見の質疑応答でこの点を問われた杉山氏は、次のように答えた。
「AI技術の研究開発は、それを推進する企業において協調できる領域と競合する領域がある。今回のそれぞれの連携センターでは、各社の具体的な事業につながる競合する領域においては個別に理研AIPとの共同研究を進める一方、理研AIPとしてはそれぞれの共同研究から抽象化して共通技術となる領域を取り上げ、そこにおいては各社とも協調した形で研究を進めていける体制をつくって日本の最先端のAI技術を生み出せるように努め、それをまた各社個別の研究や事業にフィードバックしていけるようにしたいと考えている」
つまり、理研AIPにとって今回の共同研究体制は、各社との個別プロジェクトである一方、そこから抜き出した共通技術を最先端の研究として、協調プロジェクトとして取り組んでいこうという二段構えともいえるものだ。
今回の会見を聞いていて、筆者は1980年代にAI関連技術の研究開発を目指した国家プロジェクト「第五世代コンピュータ」の取り組みを思い出した。この時は通商産業省(現・経済産業省)電子技術総合研究所(現・産業技術総合研究所)の下、IT企業各社から精鋭の研究者が集められ、10年余りもの間、大掛かりな活動が続けられた。
結局、一定の成果はあったものの、具体的な応用展開に結びつけられず、世間では失敗したプロジェクトと評された。当時、駆け出し記者ながらこのプロジェクトの取材に張り付く機会を得た筆者も、研究者たちの情熱に強い印象を受けながらも時が経つにつれて、こうしたプロジェクトの進め方の難しさを痛感した記憶がある。
その意味では、監督官庁は違うが今回もまさしく国家プロジェクトである。杉山氏が言う二段構えの取り組みで、ぜひとも日本のAI技術を結集して世界に渡り合ってもらいたいものである。