ソーシャル革命で個人の情報発信能力が高まっている
効率の革命、検索の革命に次ぐ第3の革命は、ソーシャル革命だという。さらに、第4の革命はAI(人工知能)だという。「ソーシャル革命では、個人の情報発信能力が凄いことになっている。この事実をしっかりと踏まえることが大切だ」(夏野氏)
2013年に公職選挙法が改正される前は、選挙期間中にインターネットで候補者が情報発信したら公職選挙法違反になっていた。理由は、選挙資金によって差が付くので、ビラを配ってはいけない、という決まりがあるからだ。インターネットはプリントアウトすればビラと一緒だというのだ。
「米国の場合、新しいテクノロジがルールに書かれていなかったら、書いてないんだから使おう、ということになる。一方で日本は、『今のルールのどこに該当するか』を一生懸命探し出して『プリントアウトすればビラと一緒」みたいに結び付ける。情けない」(夏野氏)
「皆さんの会社でもそうでしょ」と夏野氏は問いかける。例えば、セキュリティを重視するという名目で、16桁の英数字大文字小文字混在のパスワードを3カ月ごとに更新する。覚えられないから、みんなポストイットに書いてディスプレイに貼ってる。「何のためにセキュリティを強化してるのか。こういうことがいろんなところで起こっている」(夏野氏)
100人のエリートよりも1人のヲタクが勝つ
ソーシャル革命では、組織と個人のパワーバランスが大きく変わったと夏野氏は指摘する。「専門家の定義が変わった。20世紀は会社組織に所属している人が専門家だったが、今はネット上に情報があるから、自動車メーカーに努めていないのに自動車に詳しいやつとか出てきた」(夏野氏)
100人のエリートよりも1人のヲタクが勝つ時代だと夏野氏は言う。ヲタクは集中してるし、情報収集能力も、発信能力もある。これを活用したほうがいいという。「社員のヲタク度をチェックしたほうがいい。YouTuberがいたら広報に据えるべき。人事部は、社員のTwitterアカウントにどれだけのフォロワーがいるかを把握しているだろうか」(夏野氏)
「『うちの会社のDNAが』とかいう経営者がいたら、すぐにクビにしたほうがいい。小学生の理科が分かっていない。多様性は止められない。インターネットを使って好きなことをいくらでも調べられる現在、みんなが同じ知識を持っているという状態にはならない。このことを前提に社内の教育システムを作っているだろうか」(夏野氏)
多様性の追求は大事なことだと夏野氏は言う。「これまでは、誰でも同じ仕事ができるようにしてきた。平均値の高さを目指してきた。ところが、日本とベトナムの平均点の差は2倍は無いが、給料は10倍違う。これでは勝負にならない。平均点ではなく、バラエティで勝負するしかない」(夏野氏)
創造と想像を社会の中心価値にせよ
今後はリーダーの役割も変化するという。これまでは利害調整型のリーダーが望まれていた。違う意見を調整して、それぞれが妥協できるラインを見つけ出す。夏野氏は、「利害調整の仕事はAIにとって代わられる」と指摘する。人間が介在しないので個人的感情も入らず都合がいいという。
講演の最後に夏野氏は、日本の展望を語った。成長のための三種の神器は揃っていると夏野氏は言う。まず、カネが余っている。上場企業の内部留保は360兆円、個人金融資産は1717兆円もある。また、ブラック企業が存在するくらい日本人は勤勉で、技術も高い。
日本を立て直すために必要なことは、米国と同じことをやることだという。「クリエーション(創造)とイマジネーション(想像)という2つのソウゾウを、社会の中心価値にする」(夏野氏)。「現在はリーダーに甘えがあり、どこか他人事という感覚でも済まされているが、こうした甘えを断つ。議論や摩擦を回避することもやめる。遅すぎる判断スピードも改善する」(夏野氏)