山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

愛国心訴求から既存産業破壊へ--変化した中国企業

山谷剛史

2017-04-25 10:48

 中国人は愛国心が強い。現在の政治体制は好きでなくとも、中国人・中華民族的なものを大切にする、これもまた愛国心があるといえる。中国は政府も民間も愛国心を鼓舞し、経済大国として技術大国としてのし上がってきた…ように見える。「ように見える」と書いたのは、最近あまり愛国心に訴える新製品やサービスの発表を見た記憶がないのだ。

 筆者の記憶にあるのは、「愛国者( http://www.aigo.com/ )」というメーカーだ。中国を代表するPC周辺機器メーカーで、マウスやキーボードから、外付けHDD、ポータブルプレーヤー、デジカメまで様々な製品を発売していた。愛国心に訴えた製品では、終戦記念日の8月15日(向こうでは戦勝記念日)の数字とVictoryの頭文字からとったデジカメ「愛国者V815」などが挙げられる。

 また中国が制定したDVDの上位互換規格「EVD」でも、プレーヤー販売メーカーは愛国心を元にDVDの期日までに出荷を終了しEVD1本にすると宣言したり(結局ほとんどのメーカーもEVDを販売することなくDVDを販売し続けた)、独自CPUを開発する組織から製品が一向に出ない代わりに同組織WEBページで愛国を訴える開発者の合唱の動画があげられたりと、小中企業ではしばしば愛国心に訴えるニュースやリリースを見ることがあった。

 中国を代表する大企業もはじめは小企業で、愛国心で消費者に買ってもらうよう訴えることがあった。PCのレノボ、家電のハイアール、動画のYouku、ECの阿里巴巴(アリババ)、スマホの小米(シャオミ)などの経営者の起業術が書かれた高口康太氏の新書「現代中国経営者列伝」(星海社新書)によると、歴史の比較的長いレノボやハイアールまでは愛国心に訴えていた時期があったという。

 この本ではレノボ(当時はレジェンドと呼ばれていた)について、『当時の中国では海外製品の大量流入により、民族ブランド(国産ブランド)が壊滅するのではとの危機感が高まっていた。1996年には「中国ブランド大会」なるシンポジウムまで開催されている。海外企業の参加はお断りというこのイベントでは、現状はアヘン戦争後の半植民地状態と同様だと訴え、「祖国の滅亡を救い、民族工業を振興せよ」、中華民族は外敵に打ち勝たなければならないと熱く語られた。

 席上、柳は「中国から民族工業が失われたらどうしますか?」と質問され、「どうもこうもない。食い物にされるだけだ」と語っている。こうしてたんなる一企業ではなく、外敵と戦う救国英雄としての地位を固めていった』(同書第1章 「下海」から世界のPCメーカーへ 柳傳志(レノボ)より)としている。

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