微信(WeChat)の騰訊(Tencent)やECの阿里巴巴(Alibaba)、通信の華為(Huawei)、百度(Baidu)などのIT企業が業界内どころか中国の企業を代表するようになった。各省市の発表によると、ネット業界は金融業に続く高所得の業界として人気を集めている。
騰訊、阿里巴巴、百度では初級レベルの技術スタッフの年収は10万元台程度(1元=16円)、中位レベルの技術スタッフになると年収30~50万元、日本円にして480~800万+自社株が貰えるという。中国人の平均収入に比べて、中国のプログラマーやSEは高給取りだ。中国の商習慣が今のITテクノロジーを強力に推し進めたとはいえ、人気業界になることは簡単ではない。花形業界である代わりに人々は過酷な労働を受け入れている。
地図サービスの高徳地図が発表した2016年の交通分析レポートでは、IT系企業の残業の長さを指摘。企業別の平均残業時間は華為は3.96時間、騰訊は3.92時間、阿里巴巴は3.89時間、ポータルやゲームの網易(NetEase)は3.86時間、ECの京東(jd)は3.86時間など10時前の退社も珍しくはない。
救いがあるのは、残業時間が長いイコール残業代が多くもらえているということで、中国ではごく一部の金持ちしか買えない夢の「別荘」と呼ばれる一戸建てタイプの家(中国はどこを見回しても集合住宅ばかりだ)を所有する従業員数は、阿里巴巴、華為、百度などが特に多い。
また人材仲介サイトの智聯招聘が発表した過労死についてのレポートによれば、中国では毎年60万人以上が過労死しているとし、その数は過労死という言葉を作ったとする日本を超えるという。過労死の年齢は44歳だが、このうち37.9歳とIT業界が特別若く、それに続いて公安関係者、報道関係者などが過労死の平均年齢が低いという。ホワイトワーカー全般で見れば、50%以上が勤務時に運動をしておらず、67%以上が毎週5時間以上残業している。
残業を行ったホワイトワーカーの57%が「睡眠は7時間以下」と、74%が「3食ちゃんと食べていない」とし、70%以上が便秘や腰痛やめまいなどの症状が発生したという。「稼げるけれど、やることは多く、早死にする職業」とプログラマーなどを揶揄する記事もある。
ネットで共感を得たのか、残業の日々に体の力が全て奪われたような感覚となったというネット発の歌がネットで話題になった。歌詞の内容は、上司は残忍で毎日残業をさせて、毎日残業をしているうちに体が弱くなっていくことを嘆くというもの。それを細かく表現し歌となっている。業界が悪いのではなく、上司が悪いとしているのが興味深い。
地下鉄駅に大きく張り出されたある人材紹介会社の広告では「転社転職とは上司を変えることだ」という文言を前面に出していた。そういえば個人的にも中国人から聞いた仕事がしんどいという内容は、社内の人間関係でも業界の常識でもなく、上司が理不尽だったという話ばかりだった。上司が仕事継続のポイントだとすれば、中国のIT業界は仕事が多く過労死になりかねないしんどさはある一方で、上司(管理職)さえ仏のような人であればある程度の仕事も許容されるのかもしれない。
- 山谷剛史(やまやたけし)
- フリーランスライター
- 2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。