なぜ、いま、「サピエンス全史」がもてはやされているのか
イスラエル人歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリによる『サピエンス全史 文明の構造と人間の幸福』(河出書房新社刊)が売れているようである。上下二分冊で計500ページを超す大著だが、今年1月にNHKで同名の番組が放映されたということもあってか、Amazonでもここ数カ月常にベストセラーとしてランキングされている。
同書は世界中に分布していたホモ属の中でなぜ私たちの直接の祖先であるサピエンスだけが現代のような繁栄を謳歌するに至ったのか、なぜ同じホモ属のネアンデルターレンシスやエレクトスやフローレシエンシスは滅亡の憂目に遭わざるを得なかったのか……を、「虚構の創造」という仮説をもとに筆者独自の視点から考究した刺激的な書物である。
ハラリ『サピエンス全史』
2017年を代表するベストセラーになるかもしれないユヴァル・ノア・ハラリによる『サピエンス全史 文明の構造と人間の幸福』(河出書房新社刊)。資本主義や貨幣制度はサピエンスが創造したひとつの虚構でありひとつの宗教であるとの主張は説得力がある
それにしても、やれ「シンギュラリティー」だの、やれ「ロボット」だの、やれ「人工知能」だのといったキーワードが日々飛び交ってる昨今、どうしてよりにもよって人類の歴史を振り返る書物がこれほどまでに注目を集めているのか……。
それは取りも直さず、シンギュラリティーへの途上にある私たちが、いま、「人間」という存在の再定義を迫られているからではないだろうか。テクノロジの未来を考えるということは、すなわち人間の未来を考えるということである。
未来を語るということはすなわち私たちが所属する社会の未来を語ることであり、私たちが従事する産業の未来を語ることであり、そして、私たちが信奉する幸福感や道徳観、倫理観の未来を語ることである。
とかくテクノロジの劇的な進化に対する論及は一見したところ人間の疎外論や不要論として受け取られがちだけれども、その本質は実のところ「人間とは何か」、さらには「これから私たちはどこへ向かうのか」という原初的な問いに根差している。
インターネット第二四半世紀に突入したまさにこのときが、私たち人類の行く末を決定する重要なターニングポイントなのだろう。