FinTech発展の起爆剤として、銀行によるAPI開放への期待が高まっている。一般社団法人全国銀行協会は、2016年にオープンAPIの在り方に関する検討会を設置し、この3月には「オープンAPIのあり方に関する検討会報告書- オープン・イノベーションの活性化に向けて -【中間的な整理(案)】」を発表した。
この報告書からは、業界として前向きにAPIの提供に取り組んでいる印象を受ける。そこで、銀行がAPIを本格的に提供するようになった場合、何を目的とし、どのように行うべきなのか、APIの提供で先行するネット企業の事例を参考に考えてみたい。
ネット企業は独占を目指す
ネット企業は市場の独占を志向する。サービスの提供において物理的な距離の制約を受けないネットサービスは、優れたものにユーザーが集中するため、検索エンジンにおけるGoogleのように市場を独占する企業が登場する。
独占とまではいかなくても、数社による寡占状態となっている業界は珍しくない。国内の総合ECサイトであれば、有力と言えるのはAmazonと楽天にヤフーを加えた3社までであろうか。また、かつてのガラケー時代のゲームプラットフォームはMobageとGREEの2強であった。
ネット企業が独占状態を目指すのは、そうでなければ生き残ることができないからである。ネット企業は多くのユーザーを集め、広告や課金などにより収益を上げる。
表示1件当たりの広告料やユーザー1人当たりの課金額は小さく、多くのユーザーを獲得できなければ、サービスの改善に投資する資金が不足し、ユーザーが離反するという悪循環に陥る。
反対に、多数のユーザーを集められれば、外部から資金を調達することも可能となり、それをサービスの改善に投じることで更にユーザーが増加する。ネットサービスにおいては、業界3~4番手以下の企業が成長を持続するのは難しい。
独占状態を実現するため、ネット企業はそのビジネスモデルを工夫する。技術やソフトウェアの機能で差別化しても、一時は優位性を確立できるかもしれないが、中長期に亘りそれを維持するのは難しい。
なぜなら、技術を発展させても市場の要求水準を超えるものはユーザーに訴求しないし、ソフトウェアの機能は必ず真似できるからである。
他方、独占状態を可能にする要素をビジネスモデルに組み込むことに成功したネット企業は、長期に亘り競争力を保っている。独占を可能にする要素の代表例として、「規模の経済」と「ネットワーク外部性」が挙げられる。
規模の経済により、ネット企業は成長するほど収益性が高まり、競合に対して資金力で差をつけることができる。規模の経済を実現するため、ネット企業は自社が注力する分野の選択と集中を行う。初期のネット企業が単機能のサービスを提供することが多いのはこのためである。
Googleのトップページが象徴的だが、検索窓という無駄を削ぎ落としたシンプルなサービスを磨き抜いたからこそ、事業が成長すると膨大な利益を得られるようになった。
その資金をサービスの向上や研究開発に投じてきたGoogleに対して、今から検索エンジンの分野で挑戦しようと考える企業はほとんど存在しないのではないだろうか。