業界特化型の統合基幹業務システム(ERP)パッケージなどを提供する米Inforがクラウド化に注力している。6月には日本国内でも製造業向けSaaS型ERPの最新版をリリースした。
「5年前は『ERPのクラウド化』といっても、日本企業はほとんど関心を示さなかった。しかし、今やクラウド化は、(ERP戦略の)選択肢の1つに挙がる」と語るのは、同社バイスプレジデント&北アジア地域担当マネージングディレクターのGraham McColough氏だ。同社のコア製品である「Infor CloudSuite」は、クラウドでもオンプレミスでも利用できるが、「現在はハイブリッド環境で利用する傾向があるものの、クラウドへの移行は着実に進んでいる」とMcColough氏は語る。
Inforは7月に開催した年次コンファレンス「Inforum 2017」(7月10~12日、米ニューヨーク)で分析基盤である「Birst」の統合や新たな人工知能(AI)基盤の「Coleman」を発表。CloudSuiteの機能拡充を推進している。
とはいえ、製造業を中心とした日本企業で、ERPにAIを活用しようという機運は、まだ高まっているとは言いがたい。そのような状況でInforは今後、日本市場でBirstやColemanをどのように訴求していくのか。McColough氏とアジア太平洋日本地域担当のCas Brentjens氏に話を聞いた
データの80%を自社以外が保有
――AI基盤のColemanは2017年度中のリリースとなっているが、日本市場ではどのようなポイントを訴求していく戦略か。
Brentjens氏 Colemanは、各業界特有のアプリケーションに蓄積された知見やデータを学習し、業務の効率化や顧客の意思決定を支援するものだ。ただし、現時点で企業がAIを自社の基幹ビジネス対して完全に組み込むフェーズだとは考えていない。Colemanで実現できることは数多くあるが、これらは「Inforのビジョン」だと考えてほしい。
――製造業のERPでBI基盤であるBirstやAI基盤のColemanを導入するメリットは何か。
Brentjens氏 製造業を取り巻く環境は大きく変化している。AI搭載ロボットやIoT(Internet of Things)の導入で実現できるさまざまな“未来像”が示されている。
しかし、大半の企業は各組織ごとにサイロ化しており、データや情報の分断化が発生しているのが現実だ。最先端企業ではデジタル化が進んでいるものの、多くの企業では肝心な部分は台帳やExcelで管理している。
そうした状況では、データを統合して情報を一元的に集約し、効率的に(データを)活用することが求められる。特に製造業の場合は、(1つの製品を製造するために)利用するデータの80%をサプライチェーンなど自社以外が保有しているからだ。
例えば、グローバルでビジネスを展開する日本企業では、東南アジアの製造拠点で利用しているERPと日本本社のERPが異なるといったケースが多い。また、日本でパーツを作り、(納品する輸出先の)外国で製品を組み立てている大手製造業もある。
製造業が世界各地から資材調達をするときなどはデータの可視性が重要だ。そして、どこから資材を調達すればよいかを分析するためには、BIやAIは役に立つ。特にITとOT(Operation Technology、制御技術)の融合が重要となる製造業では「何が発生しているのか」を可視化し、「どのような対策を講じるべきか」をデータ分析で読み取ることが求められるからだ。
――日本の製造業には「AIのアルゴリズムはブラックボックスなので、導き出された結果を受け入れられない」という声がある。AIを提供していく上でこうした懸念にはどのように対応するか。
Brentjens氏 需要予測などで、これまでとはまったく結果をAIが導き出せば、不安になることは理解できる。ただし、その結果をどう捉えるかは、人間の判断だ。
AIが導き出した結果は、人間が決定を下す要因の1つだと考えてほしい。AIをビジネスアプリに取り込むことは始まったばかりだ。人間の成長過程に例えるなら、ハイハイから二足歩行を始めた段階だ。