本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉をいくつか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、日本IBMの三澤智光 取締役専務執行役員と、EMCジャパンの林孝浩ソフトウェアデファインドストレージ事業担当ディレクターの発言を紹介する。
「WatsonはビジネスのためのAIプラットフォームである」
(日本IBM 三澤智光 取締役専務執行役員)
日本IBMの三澤智光 取締役専務執行役員
日本IBMが先頃、IBMのコグニティブコンピューティング技術「Watson」に関する事業の新たな施策について記者説明会を開いた。同社取締役専務執行役員でIBMクラウド事業本部長を務める三澤氏の冒頭の発言はその会見で、Watsonと他の人工知能(AI)の違いを端的に語ったものである。
Watson事業の新施策については、「パートナーエコシステムの拡大」と「ソリューションパッケージの提供」を発表。その内容については関連記事をご覧いただくとして、ここでは冒頭の発言を掘り下げたい。
三澤氏は私見と前置きしたうえで、「AIは大まかに言うと2種類あると考えている。1つはSiriやCortanaのような日常生活をサポートしてくれるAI。もう1つがWatsonのようなビジネスのためのAIだ。双方とも同様の技術を使っているところはあるが、目的が明らかに違う」と語った。
では、ビジネスのためのAIプラットフォームとはどのようなものなのか。同氏は図を示しながら、次のように説明した。
図:「ビジネスのためのAIプラットフォーム」を標榜するWatsonの独自性と優位性
(出典:日本IBMの資料)
まず、ビジネスのためのAIにはビジネスアプリケーションから求められる機能を備えていることが重要だ。例えば、照会応答、探索・発見、意思決定支援といった機能である。「こうしたアプリケーションからの要望に対し、ディープランニング(深層学習)のエンジンだけのAIではしっかりと応えることができない」(三澤氏)という。
また、進化し続けるAPIが提供されていることも重要だ。WatsonのAPIは自然言語処理やディープランニングなどの技術を活用して、ビジネスアプリケーションを開発しやすいように進化し続けているという。
次に、ビジネスのためのAIではデータをどのように生かしていくかが非常に重要なポイントとなる。つまり、個々の企業が自らのデータを有効活用して、それぞれに競争優位を生み出していくわけだ。図ではそれを「お客様の企業データをお客様の武器に変える」と表現している。
そして最後に、それらを支えるのがクラウドである。ビジネスのためのAIのベースとなるクラウドは、高い拡張性と柔軟性を持つ基盤でなければならない。ちなみに、IBMではかつてクラウドとWatsonの事業は組織として別々に展開してきたが、今年になって組織および事業の統合を図った。従って、三澤氏もこれまではクラウド事業部門の責任者だったが、この7月から「クラウド+Watson」の事業推進を担っている。厳密に言えば、この組み合わせこそが「ビジネスのためのAIプラットフォーム」である。少々ベタな表現かもしれないが、こうした違いを明確に示すメッセージを発信するのは非常に大事なことだろう。