AI的なインタフェース
最後に既に身近になっているところを考えてみたい。
AIを用いた対話的なUIの場合、ユーザーにとっての嬉しいポイント、期待することは、ユーザーが努力してコンピュータに合わせた入力をしなくていいということ、そして、出力を解釈するのに手間を掛けなくていい、ということであろう。
コンピュータのプログラムは曖昧さなく書く必要があるのはもちろんのこと、キーボードでコマンドを打ったり、タッチパネルでアイコンを選択したりする場合も、ユーザーがやりたいことをコンピュータへの指示に「翻訳」している。
ウェブで検索するのも、探したい事柄をいくつかの「検索ワード」で表す必要がある。
日常の人間同士の会話であれば文脈や推測である程度の曖昧さが補完され、常に正確に曖昧さなく喋る必要はなく、人間はそれに慣れている (もちろん、仕事のやりとりなどは常日頃から曖昧さを少なくするように心掛けた方が「エクスペリエンス」がよくなる)。
コンピュータとのやりとりも同様にできれば、特にコンピュータ向けの入力に慣れていない人には好都合である。
出力も、日常会話的な入力には日常会話的な形で返されるのが自然で受け入れやすいであろう。
「インターフェース」とはユーザとコンピュータの間を取り持つ部分であり、このようなインターフェースはコンピュータへの入出力を大きく柔軟に翻訳して取り持っている、と言える。
人間的な柔軟さを持っていることが期待されるので、(まだそこまでのものはあまりないと思うが) ユーザーの知識や熟練度などに合わせて対応を調整したりすることも自然にできるだろう。
そこが AI的なインターフェースのもたらすよいUXの1つとなり得る。
これを旧来の GUI でやろうとすると、メニューやモードを切り替えたりと明示的な選択がないと不自然になったり、細かな調整は却って煩雑になってしまったりする。
最後に
「AIに仕事が奪われる」といった脅威論や、その裏返しとも言える「AIは人間に決して追いつけない」という、願望に近いような楽観論など、まだ当分は百家争鳴するのであろう。
実際のところどうなるか、未来になってみないと分からない部分も多々あるが、今のところAIが道具化した場合の UXがどうあるべきかを、その特性を見極めつつ冷静に考えておくといいであろう。
- 綾塚 祐二
- 東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修了。ソニーコンピュータサイエンス研究所、トヨタIT開発センター、ISID オープンイノベーションラボを経て、現在、株式会社クレスコ、技術研究所副所長。HCI が専門で、GUI、実世界指向インターフェース、拡張現実感、写真を用いたコミュニケーションなどの研究を行ってきている。