さらに、投資回収も計画通りにいかないことが判明しました。ITプロジェクトではよくあることですが、一般的に考えれば大ピンチです。そこで千石君は、巣鴨課長のアドバイスに基づき、要件を再度絞り込むことにしました。
とはいえ、一律に各部門に業務要求の精査を依頼しても、どこも自部門の要求を取り下げることは期待できません。千石君は、業務部門に属さない自身で削減案を作ることにしました。
第三者による客観的な分析に基づく提案の方が、受け入れられやすいと考えたからです。そして、要求削減の対象となる部門への腹案の事前説明を経て、プロジェクト会議の場で削減案を提案しました。
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千石君:先のプロジェクト会議で取りまとめた一次案では、当初予算を大きくオーバーし、投資回収の損益分岐点も予定より2年遅れることが判明しました。そこで、要求をさらに絞り込む必要があります。私なりに吟味した結果、若干の予算増を行うとともに、損益分岐点を1年遅れとするところがぎりぎりの線かと思います。この場で合意が得られれば、経営会議に再度付議する予定です。
経理部門代表:では、具体的な削減案を聞かせてもらおうか。
千石君:はい。私の提案は大きく2点です。
まず、先に合意した要求の評価結果において、優先度が「高」以外の要求項目について、オプション追加をやめます。次に、アドオン開発の追加費用が必要となる要求項目について内容を25%削減します。この削減内容は、担当部門との間で個別に調整します。
筆者作成
販売部門代表:その案だと販売代理店との連携に関する要求が削られることになる。ただし、客観的な評価に基づく対応なので、仕方がない。また、コールセンター業務に関する要求内容も精査することになる。顧客との接点は大変重要であり、この部分は聖域と考えていたが、採用するパッケージが十分に対応していないのが残念だ。要求内容の削減は、こちらも仕方がないな。
千石君:ご理解いただき、ありがとうございます。それでは、私の削減案は了承されたということで、経営会議に付議いたしま…。
経理部門代表:ちょっと待った! 今回開発するシステムは、わが社の将来の方向を左右する重要なものでしょう。投資効果がどの程度かを適時、的確に把握し、機敏に対応することが必要です。ここで提案ですが、投資効果をリアルタイムに測定する仕組みを組み込んではどうでしょうか?
販売部門代表:いい提案ですねぇ、大賛成です。当社品やコラボ品などの商品種別ごとの売り上げと利益を取引成立の度に測定、蓄積するとともに、日次で集計するようにしましょう。もし、現在想定するよりも高い効果が得られていることが分かったら、追加投資により今回削った要求を実装し、さらなる効果拡大を狙うことも可能になります。
千石君:素晴らしいアイデアです。異議がなければ、先ほどの修正計画と併せて経営会議に提案しますが、いかがでしょうか。
全員:異議なし!!
千石君:ありがとうございます。ここでまとめた計画変更案は、おそらく経営会議で認められるでしょう。というか、何としてでも認めさせます。