第6回:要件定義文書を取りまとめ--不採用要求も整理、記録が必要 - (page 6)

山下博之 (IPA/SECシステムグループリーダー)

2017-10-20 07:00

千石君:要求や要件の明確化や調整を進める要件定義の初期段階では、相互理解を深めるための要点中心の作業文書や全体俯瞰図のような補助的な作業文書を使った方が仕事がはかどります。一方、ある程度要件が固まった段階では、文書種別ごとに適切なタイミングで、作業文書を整理して設計工程に引き継ぐための(規定類で説明されているような)厳密に漏れなく記述した正式な要件定義文書にまとめていくのが効率的です。

巣鴨課長:いいところに気付いたね。規定類やガイドブックの通りにやるんじゃなくて、それらを参考に自分たちにふさわしいやり方を見つけ、少しずつ改善していくことが重要なんだ。

千石君:そうですね。いい勉強になりました。

巣鴨課長:それで、今回はどのような作業文書を使ったのかい。

千石君:はい。課長に教わったものも含め、局面に応じて複数種の作業文書を作りました。独自に作成したのは、ざっくり以下の文書です。

  • 俯瞰図:ステークホルダーの洗い出し、システムの全体像の把握
  • 概略図:業務の基本的な流れの理解、主要な項目によるシステムの理解
  • 一覧表:ボリューム感の認識、抜け漏れ防止、以降の管理用
  • 分類表:類似要求の整理、部門間の相互理解

巣鴨課長:よく工夫したね。

千石君:ありがとうございます。ご期待に添えるよう頑張ります。ちなみに、次回の僕の査定なんですが…。

巣鴨課長:(苦笑)

●要件定義に悩むユーザー企業担当者必携の一冊
ユーザのための要件定義ガイド ~要求を明確にするための勘どころ~

ユーザのための要件定義ガイド(1574円+税)
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 要件定義についてもっと詳しく知りたい人は、IPA/SEC編の『ユーザのための要件定義ガイド ~要求を明確にするための勘どころ~』を入手してほしい。

 本書は、主にユーザー企業でITシステムの要件定義を実施する読者を対象に、要件定義において発生する問題と、その解決方法をまとめたガイドブックだ。

 システム開発で発生する問題の半分は、「要件定義」の不備に起因していると言われている。要件定義の不備は、工程が進めば進むほど修正に多大な労力が必要となる。要件定義を行う課程では、明確な目標の設定、膨らむ要求のコントロール、業務の複雑性の軽減、多様なステークホルダーとの合意など、さまざまな課題に直面する。これらを適切に対応すれば、「工程進行後に多大な修正が発生する」といった問題の発生を抑制できる。

 本書では、こうした問題について、熟練した有識者がこれまでのプロジェクト経験から「ありがちな間違いとその解決策の勘どころ」を、具体例を挙げて分かりやすく解説している。

 本書は一般書店にて、1574円(税別)で販売しているほか、IPA/SECのサイトからもPDF版を無償でダウンロードできる。本連載と対応させながら、ぜひ読んでほしい。

山下 博之

情報処理推進機構(IPA)技術本部 ソフトウェア高信頼化センター システムグループ グループリーダー

山下博之氏

1981年、京都大学大学院修士課程(情報工学)修了。同年、日本電信電話公社(現NTT)入社。以後研究所において、データ通信等に関する研究開発と標準化活動に従事。2003年10月、NTTデータに転籍。2004~2008年、科学技術振興機構(JST)に出向。2009年4月、NTTデータアイ入社、同時にIPAに出向し、現在に至る。ソフトウェアエンジニアリング、高信頼化システムの構築運用に関する技法の取りまとめとそれらの普及展開に取り組む。情報処理学会シニア会員、電子情報通信学会、IEEE各会員。

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