「住まいを購入するまでのプロセスは、システム開発における要件定義とよく似ている」をコンセプトに、要件定義のプロセスを解説する本連載。今回は、要件定義文書を取りまとめるプロセスを解説していく。拡大する要求を目的と制約に照らして取捨選択、調整し、どのように要件を整理するのか…。まずは千石君の「家づくりプロセス」から見ていこう。
家づくり編:現実と将来を見据え、適切な仕様に落ち着く
前回、夢のマイホームに対するそれぞれの希望を出し合った千石夫妻。仕様確定期限が迫る中、このままでは収拾がつかないと考え、冷静にお互いの要求を再整理することにした。
千石夫人:私たちの要求をすべて満たすには、到底資金が足りないわ。いくらまで出せるのか、はっきりさせないと話が進まないわね。
千石君:そうだね。今のところ、確実に用意できる資金をリストアップすると、次のようになるよ。
手持ち預金: 300万円
住宅積立金:1000万円
住宅ローン:4000万円(30年返済)
千石夫人:合計5300万円じゃ全然足りないじゃない。土地代だけで4000万円かかるのよ。1300万円で建てられる家なんて、カスタマイズができないプレハブ住宅ぐらいだわ
千石君:うん。今さらだけど、考えが甘かった。年収に見合った返済額とか、今後の教育費なんかを考慮すると、あまり多くのお金を借りることは難しいんだ。というか、あとの生活が大変になるんだ。
千石夫人:……あと200万円ぐらいなら何とかなるわよ。
千石君:えっ?
千石夫人:学生時代から前の会社を辞めるまで、少しずつ貯めていたお金があるの。本当は、私の趣味のために取っておきたかったのだけど。
千石君:へそくりを出してくれてありがとう。さすが、僕の奥さんだ。
千石夫人:これ以上は出ないわよ。…本当よ。
千石君:念押しをしなくてもいいよ。あとの足りない分は節約して何とかしよう。
千石夫人:あなたが頑張ってもっと稼ぐって選択肢はないの?
千石君:今関わっているプロジェクトが成功すれば、会社の利益も増えるし、僕の実力も評価される。頑張るよ。
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とはいえ、昇給を期待して家を建てるわけにはいきません。千石君は自分の両親に相談し、1000万円を支援してもらう約束を取り付けました。こずるいですね。ともあれ、最終的に計7000万円の資金を確保ができました。うち、土地代を除くと、家の建築に使えるのは3000万円です。
手持ち預金: 500万円
住宅積立金:1000万円
住宅ローン:4500万円 (30年返済)
親から借用:1000万円
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