身の回りから始めるクリエイティブマインドへの道のり

飯田哲夫 (アマゾンウェブサービスジャパン)

2018-03-13 08:00

 自分は無口なのだが、顔つきがちょっと真面目なので、常に深淵なることを考えているように思われる。しかし、実際にはほとんど何も考えていないので、あんまし難しい質問はしないでほしいのである。あと、絵を描くのでとてもクリエイティブな人だと思われたりもするが、実は釣りの餌の付け方を工夫する方が好きなのである。

 でも、たまにはちゃんと考えて、クリエイティブになろうと思って『クリエイティブ・マインドセット』を読んでみた。この本は、IDEOという世界的に有名なデザイン思考を提唱する企業の創業者であるケリー兄弟の著書である。

 この本によると、人間は本来クリエイティブであるから、鍛えれば誰でもクリエイティブになれる。そして、この本の素晴らしいのは、日々の生活の中で、そして仕事の中でそれを実践するためのティップスが豊富に散りばめられていることだ。

 それゆえに、明日から行動に移すことができる。そのうちの一つがバグリストを随時更新しろというものだ。「身の回りで『どこかがおかしい』と気づくことは、その問題のクリエイティブな解決策を思いつくための必須条件といえよう」(前掲書)ということだ。

 とはいえ、自分は考えていそうで考えてないので、そう言われましてもねぇと思いながら仕事へ向かっていると、ガマガエルが1匹つぶれて死んでいた。そこから3分くらい歩くとまた1匹つぶれて死んでいる。

 なんだこれは。むむ、ケリー兄弟が言う「どこかおかしい」とはこのことか!?

 春先の低気圧に南風が吹き込むと、暖かい雨が降ってカエルが冬眠の穴から一斉に出てきてうろうろして車に轢かれちゃう問題。せっかく狭いところから出てこれから、というところで発生する悲劇、これは何とかしてあげたい。でも、これ、人の問題じゃなくてカエルの問題じゃないのか。

 でも、狭いところに閉じ込められるという意味では、飛行機のエコノミークラスも一緒で、このカスタマーエクスペリエンスだけはなかなか改善しない。カエル問題と同じくらいに毎度なんとかならんのかと思う。

 航空業界の新しい特許とか見てると、さらに詰め込むためのアイデアが考案されていたりしてむしろ戦々恐々だ。その疲労感は半端なく、飛行機から降りてそのまま道路に放り出されたら、ふらふらしている間にカエルと同じ運命をたどりそうである。

 しかし、ついにエコノミークラスにカスタマーエクスペリエンスの概念を取り込んだ航空会社が登場したようである。『クリエイティブ・マインドセット』によると、ニュージーランド航空は、その地理的特性から、「世界で最も長距離飛行が多い」そうで、顧客サービスを何とか変えたかったのだと言う。それで、IDEOのチームとさまざまなアイデアを検討した結果、カウチシートというものを開発した。

 これは、通常のエコノミーシートにフットレストを付けて、これを90度跳ねあがるようにすることで、3席つなげると広々としたフラットな空間ができあがるというものだ。シートマップを見るとボーイング777型機の左右9列がカウチシートなので、結構需要がありそうだ。

 いよいよ、金融サービスに並んで、飛行機のエコノミークラスにもカスタマーエクスペリエンスの波がくるかと期待される。良く考えると、カウチシートは家族向けで、1人で出張するには使えないな。でも、IDEOいわく、「できない」ではなくて、「~ならできる」と言えと。

 そうか、じゃあ出張に家族連れてけばいいのか。でも、ニュージーランドしか行けないじゃんか、これ。やっぱ当面カエルクラスだな。もうちょっとクリエイティブになって解決策を考えてみよう。

飯田哲夫(Tetsuo Iida)

アマゾンウェブサービス ジャパンにて金融領域の事業開発を担当。大手SIerにて金融ソリューションの企画、ベンチャー投資、海外事業開発を担当した後、現職。金融革新同友会Finovators副代表理事。マンチェスタービジネススクール卒業。知る人ぞ知る現代美術教育の老舗「美学校」で学び、現在もアーティスト活動を続けている。報われることのない釣り師

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