日本マイクロソフトは4月6日、海洋船舶の開発・製造企業であるJRCSと協業し、海運・海洋産業の働き方改革を推進するプロジェクト「JRCS Digital Innovation LAB」を開始すると発表した。船員の訓練や機器の保守基盤を開発し、最終的には自動運航船の運用をMicrosoft HoloLensで目指す。日本マイクロソフト 代表取締役社長 平野拓也氏は「最初は日本航空(空)、昨年秋は三菱ふそう(陸)、そしてJRCS(海)と『陸海空すべてそろった』」と述べ、HoloLensビジネスが順調であることをアピールした。
日本マイクロソフト 代表取締役社長 平野拓也氏
7000隻以上の船舶に動力システムや制御システムを提供するJRCSは、「海運・海洋産業では慢性的な船舶職員の不足と高齢化が課題」(JRCS 代表取締役社長 近藤髙一郎氏)だという。この業界が抱える問題を改善するため、「人手不足の中で海運・海洋事業の一端を担う企業として我々は、業界内から変革を起こす必要がある。海運・海洋業界がかつての輝きを取り戻すため」(近藤氏)、デジタルトランスフォーメーションに取り組み、ITパートナー企業として日本マイクロソフトを選択した。
JRCS 代表取締役社長 近藤髙一郎氏
JRCSは日本航空や小柳建設など、HoloLensを活用した事例に以前から興味を持っていたという。2017年1月には米MicrosoftがあるRedmondを訪れ、直接HoloLensチームから事例紹介などを受けて「よい意味でショックを受けた」と近藤氏は語る。JRCSは米国本社とHoloLensの開発プログラムを締結し、4月からJRCS Digital Innovation LABを設立。デジタル変革を行う製品開発を推進する。日本マイクロソフトはエンタープライズサービス部門によるデジタルアドバイザーの支援を行う。
デジタルアドバイザーは顧客の需要に応じたデジタル文化習得の支援や、デジタル基盤構築支援、デジタルへの取り組みを経て、顧客のデジタル熟成度向上を目指す存在だ。日本マイクロソフトは本件について、「これまではオフィスワーク中心だったが、(JRCSが開発するHoloLensアプリケーションおよびプラットフォームを指して)現場の顧客が国内外に広がる。働き方改革の最先端だ」(平野氏)と高く評価した。今回の協業で蓄積した知見は海運・海洋産業にとどまらず、他業種への展開は従来同様続けていく。
JRCSが開発するHoloLensアプリケーションの活用は3段階で推進する。第一弾は「INFINITY Training」。JRCSは船員の訓練および資格証明などの国際条約である「STCW条約」に準拠した船舶の乗組員や整備スタッフのトレーニング業務を行っている。顧客需要は国内外に存在しながらも、同社は山口県下関市にあるため、遠隔トレーニングにHoloLensを用いるサービスを2019年3月より開始する予定だ。
第2弾の「INFINITY Assist」は船内設備・機器のライフサイクル向上とメンテナンス事業者の負担軽減を目指すソリューション。「通常は船員が設備や機器のメンテナンスにあたるが、機器メーカーやサプライヤーがメンテナンス支援を可能にするプラットフォームを提供する」(JRCS イノベーション営業部部長 兼 Digital Innovation LAB室長 空篤司氏)とJRCSは説明した。こちらは2019年内に商品化し、2020年より順次コンテンツの拡大を図る。
JRCS イノベーション営業部部長 兼 Digital Innovation LAB室長 空篤司氏