富士通、組み合わせ最適化問題に対処する「デジタルアニーラ」サービスを開始

國谷武史 (編集部)

2018-05-16 06:00

 富士通は5月15日、組み合わせ最適化問題に対処するアーキテクチャを採用したクラウドサービス「FUJITSU Quantum-inspired Computing Digital Annealer(デジタルアニーラ)」と、同サービス利用時の支援を行う「FUJITSU Digital Annealerテクニカルサービス」の提供を発表した。2019年度にはハードウェアを活用して大規模化も進める。

 新サービスは、量子現象に着想を得たというアーキテクチャによって、膨大な計算量を必要とする組み合わせ最適化の計算を超高速で行うことができる。選択肢の組み合わせから最適解を導き出すという処理において、選択肢の数などが増えるほどに分岐が増え、計算量も増してしまうことで解答を得にくくなる組み合わせ最適化問題は、従来の汎用的なスーパーコンピュータでも計算能力が不足して現実的な対処が不可能だという。

 1998年に東京工業大学教授の西森秀稔氏らが提唱した量子アニーリングは、量子コンピュータの主要な方式の1つだが、富士通ではハードウェア面の制約から実用的な規模での利用がまだ難しいと説明。量子現象に着想を得たアーキテクチャと富士通研究所のデジタル回路技術、提携するカナダの1QB Information Technologiesのソフトウェア技術を組み合わせることで、組み合わせ最適化に対応できる商用サービスが可能になったと説明する。

 商用レベルでは、2011年からカナダのD-Wave Systemsがハードウェアを提供しているが、富士通でも2018年10~12月期中に最大8192ビット規模/同64ビット精度のデジタルアニーラのチップ「Digital Annealing Unit(DAU)」を開発し、2019年度からオンプレミス環境でも利用可能なサーバシステムとして展開していく計画を掲げる。


デジタルアニーラサービスの特徴

 今回のクラウドサービスは第1世代という位置付けで、1024ビット規模/16ビット規模になるが、処理能力のイメージでは1京(10の16乗)通りの組み合わせの総当たり計算を1秒以内に行えるという。DAUを利用した第2世代のサービスでは、複数DAUのハードウェアでの並列実行と並列実行のための分割化ソフトウェア技術を組み合わせて100万ビット規模の処理が可能になるほか、金融分野などで求められる「精度優先」もしくは化学分野などで求められる「規模優先」の“二刀流”で利用することができるとしている。


デジタルアニーラのロードマップ。第2世代ではハードウェア展開を進める

第2世代サービスの方向性

 記者会見した執行役員 グローバルコーポレート部門 グローバルマーケティンググループ長の山田巌英氏によると、デジタルアニーラの実証成果としては、創薬で膨大な数の分子構造の中から類似構造を持つ分子の高速検索、金融では500銘柄の証券から最適な組み合わせポートフォリオの抽出、流通では部品在庫の最適配置や出庫パターンの計算による移動距離の45%削減といた事例がある。

 今後は、例えば、がんの放射線治療において10の150乗通りの照射パターンから最適なパターンを見つけ出すのに、数日から数時間を要したものが数分に短縮できる効果が期待されるという。執行役員常務 デジタルサービス部門副部門長の吉澤尚子氏は、この他に自動車の自動運転における移動経路の高速検索、新素材開発や高度医療といった新規分野での利用イメージを挙げ、「組み合わせ最適化問題はあらゆる業種に存在しており、その解決を図れる有望な技術」と強調した。


DAUを持つ富士通 執行役員常務 デジタルサービス部門副部門長の吉澤尚子氏

 デジタルアニーラの利用イメージは、ユーザーが知りたい問題の数理モデルに対するパラメータをネットワーク経由でクラウドサービスに入力すると、解答が提示される。また、サービスの占有利用やトライアル、一部のライブラリのみの利用、ローレベルインターフェースを介したアプリケーション連携といった柔軟な利用パターンに対応するという。テクニカルサービスでは、モデル化の支援や実証および検証の作業支援、アプリケーションの構築や運用保守などを行う。利用料は個別見積りだが、「最小では数十万円台から利用可能なイメージ」(山田氏)という。

 同社は、デジタルアニーラの専門技術者やシステムエンジニアを1500人確保し、同ビジネスで2022年度までに累計1000億円の売上を計画する。併せて人工知能(AI)関連事業を手がける拠点「AI Headquarters」を2018年度上半期中にカナダのトロント市で開設し、グローバルでのAI事業を牽引する。吉澤氏は、「北米はAIにおける世界の中心地であり、北米企業のAI投資は日本の20倍という市場規模になる。従来は日本主導だったが、今後は北米から先進事例を世界展開し、エコシステムを拡大させる」と表明した。

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