将来的にはデータマーケティングやEC戦略への活用も
こうした西武ライオンズの電子チケットへの取り組みは、現時点ではまだ初期段階に過ぎず、3年後のスタジアム改修に合わせたスマートスタジアム実現に向けては、さらに多くの仕掛けが計画されている。吉田氏によると、大きく分けて「お客さまの不便解消と利便性向上」「お客さまにとっての観戦価値の向上」「マーケテイングとマネタイズの仕組み実現」という3段階のステップを予定しているという。
「まずは、スタジアムでの観戦でお客さまが感じるストレスや不便といったマイナス面を、デジタルチャネルを介したサービス提供を通じて解消していきたいと考えています。一例を挙げれば、トイレやショップの場所や混雑状況などをLINEを通じて知ることができるサービスを企画しています。電子チケットならお客さまの席情報が把握できますから、こういうきめ細かなサービスも容易に実現可能です」
こうして、観戦にあまり慣れていないライトなファンが、スタジアムで感じるストレスや不便を解消していく。そしてその次に計画しているのが、試合観戦の価値向上に寄与するようなデジタル体験の提供だ。例えば、試合観戦の初心者が往々にして戸惑う「応援の作法」や、出場選手などに関する情報がリアルタイムでLINEから取得できれば、これまでなら観戦中に戸惑っていたような場面でも周囲のファンと一緒に楽しめるようになり、試合観戦の価値が2倍にも3倍にも向上する。そうやって楽しんでくれたユーザーは、「また同じような体験をしたい!」と感じて、再びスタジアムを訪れてくれる。そうやって、コアなファンをさらに増やしていこうというわけだ。
こうした「お客さまのための」施策が実現した後に、初めて電子チケットの運用を通じて得られたユーザーデータを使ったマーケティングやマネタイズの施策が可能になるという。具体的には、「どういったプロフィールの顧客が、どんな人々とともに、どういう試合を見に来るのか」といった「顧客の行動データ」を集計・分析し、その結果を今後のマーケティング活動の計画立案に生かしていく。
さらには、スタジアムでの観戦を促すだけでなく、ECサイトでのグッズやデジタルコンテンツの販売施策にもこうしたデータを生かすことで、「スタジアムには足を運べないけど、グッズやコンテンツの購入を通じてファン心を満たしてくれる顧客」へのサービス向上にも生かしていきたいとしている。
「こうしたデジタル施策を進めるために、2018年から『NPS(Net Promoter Score)』という指標を用いて、野球の試合観戦を通じたカスタマージャーニーを可視化・分析する取り組みを始めています。今後もお客さまの声を広く集めながら、弊社が考えるスマートスタジアムの実現に向け、より価値の高い野球観戦の体験を提供すべくデジタルの取り組みを強化していきたいと考えています」(吉田氏)