日本マイクロソフトは5月22日から2日間、都内で開発者向けカンファレンス「de:code 2018」を開催している。冒頭を飾った日本マイクロソフト 執行役員 常務 デジタルトランスフォーメーション事業本部長 伊藤かつら氏は「クラウドは当たり前になり、ビジネスシーンや生活の各所へAI(人工知能)が姿を見せるようになった」と述べ、既にクラウドが技術的な単語ではなく、社会を構成する概念になりつつあると語る。
その概念構築を担うソフトウェア技術者に対して、「今年のテーマは『LOVE to CODE』。個人や組織が持つ潜在的な可能性を解き放つエンパワーを実感してほしい」(伊藤氏)と力強く投げ掛けた。
日本マイクロソフト 執行役員 常務 デジタルトランスフォーメーション事業本部長 伊藤 かつら氏
日本マイクロソフトは、技術の核を構成する要素として「ユビキタスコンピューティング」「AI」「マルチセンス(多様な感覚)&マルチデバイス体験」を掲げている。既にコンピューターやデバイスが日常のあらゆる場面に存在し、IoTデバイスから取得したデータをトリガーにイベントドリブン(駆動型)する世界は実現した。またAIも、バズワード化するなど目新しさを感じなくなっている。筆者が気になったのは最後のマルチデバイス体験だ。
以前からMicrosoftは「One Windows」などデバイスにとらわれないユーザー体験を掲げてきたが、日本マイクロソフトは「OSを再定義」(伊藤氏)するためのシナリオだと説明する。既にWindowsデバイスだけを使用するシナリオは現実的ではなく、現状に即したマルチデバイス体験を提供する第一歩として、Windows 10 バージョン1803が備える「タイムライン」機能をiPhoneやAndroidデバイスで実現する「Timeline on Phone」を披露した。
また、2018年9月頃リリース予定の機能更新プログラムで実装する「Your Phone」は、「スマートフォンの機能をシームレスにPCでも利用可能にするアプリ(アプリケーション)」(伊藤氏)。UWP(ユニバーサルWindowsプラットフォーム)アプリとして、スマートフォンで受信したSMSをPC上の同アプリで返信し、受け取った画像ファイルをPowerPointなどに張り付ける機能を備えると紹介した。
Timeline on PhoneやYour Phoneだけでデバイスをまたいだ体験を実現できるとは考えにくい。だが、ベンダーロックインならぬデバイスロックインという観点から見れば、ファイルはクラウド上にあり、特定デバイスの利用から解放されるのは事実だ。好意的に見れば、新たなシナリオに即した第一歩と言えるだろう。
スマートフォンで受信したメッセージに対してPCによる返信を実現する「Your Phone」。2018年9月以降リリース予定の次期Windows 10で利用可能となる
今回のイベントで特徴的なのが、後に登壇する日本マイクロソフト 代表取締役社長 平野拓也氏を除いて皆女性という点。Microsoft CVP, Azure Marketing, Julia White氏はMicrosoft Azure関連機能、Microsoft CVP, Developer Division, Julia Liuson氏は開発環境、Microsoft CVP, Mixed Reality Studios General Manager, Lorraine Bardeen氏はMR(複合現実)について、それぞれアピールした。ただし、いずれの内容もMicrosoftが2018年5月7日(現地日時)から3日間、ワシントン州シアトルで開催した「Build 2018」と重複するため、本稿では要約して紹介する。
White氏はMicrosoft Azureを実現する100以上のサービス群を「コンテナ+サーバレス」「IoT」「データ」「AI」の4分野に分け、それぞれ新機能をアピールした。イベント駆動型を実現するため、1秒間に数百万レベルのイベント処理を可能にする「Azure Event Grid」や、コンテナを利用したアプリ展開を可能にする「Azure IoT Edge」、グローバルで数ミリ秒という低レイテンシを実現するCosmos DBの「Multi Master write」に関するデモンストレーションなど披露。
また、AIの文脈では、「Azure Search」と「Azure Cognitive Services」を統合し、画像や動画、PDFなどのインデックス化を可能にするサービスを紹介。NBA(ナショナルバスケットボールアソシエーション)は、インジェスト(映像データの移動)からアーカイブ処理までを同サービスで実現し、ビジネスの最適化や顧客の信頼性を勝ち取ったとビデオメッセージで語った。
Microsoft CVP, Azure Marketing, Julia White氏
Liuson氏の説明によれば、Visual Studioの利用者数は700万人、Visual Studio Code利用者数は360万人を超えたそうだが、同氏はBuild 2018でも話題になった「Visual Studio Live Share」を紹介した。本機能は開発者がOSや環境を問わずにリアルタイムでコード開発の支援を可能にするというもの。ちょうどOffice 365の共同作業に近いものだが、一方の環境で作成したローカルホストを相手と共有して、実行結果の共有なども行える。
この他には、Build 2018で発表したモバイルアプリ環境を支援する「Visual Studio App Center+GitHub」や、CI/CD(継続的インテグレーション&継続的デリバリ)開発環境を実現する「Azure DevOps Projects」、Kubernetesの開発効率性を向上させる「DevOps project with AKS(Azure Kubernetes Service)」「Dev Spaces for AKS」「.NET Core 3」のロードマップや「Windows Desktop on .NET Core 3.0」の発表も行った。
Microsoft CVP, Developer Division, Julia Liuson氏