IT×芸術論:芸術を通してITの未来を考える

「トラック野郎」は実はネットワークの映画だった

高橋幸治

2018-06-30 07:00

「昭和的なもの」が満載の「トラック野郎」シリーズ

 1989年から続いた平成も残すところもう1年を切ってしまった。果たして平成の30年間がどんな時代であったのか、今後さまざまな場所でさまざまな角度から議論されることだろう。しかし、なんらかの総括的な見解が提出されるのはもう少し先のことかもしれない。なぜなら、流動する時代を「歴史」として凝固させるためには、ある程度の時間が必要になるからである。

 そうした意味で、平成の前の昭和という時代は既に多くのことが語られ、政治的な側面、経済的な側面、文化的な側面、あらゆる領域が過ぎ去った「歴史」として固定化されたと言っていい。昨今、あらゆる場所で問題となっているセクハラやパワハラの事件などは、残存する「昭和的なもの」がいよいよ終焉を迎え、現代という時代にマッチしなくなった結果なのだと感じる。

 そんな「昭和的なもの」を良きにつけ悪しきにつけ振り返ることのできる格好の素材として、1960年代〜70年代にかけて撮られたシリーズものの日本映画がある。この時代、東映、東宝、松竹などの各社が競って自社のスターを主役に据えたシリーズものを撮り、盆暮れ正月の風物詩として人気を博していた。なかでも特に面白いのが、1975年から1979年まで全10作が制作された「トラック野郎」シリーズである。

 主演は「仁義なき戦い」シリーズで不動の人気を確立した菅原文太。監督はナンセンス映画の巨匠・鈴木則文がシリーズを通じてすべて担当している。「トラック野郎」というタイトルが示す通り、同作は大型輸送トラックに派手な装飾/電飾を施した、いわゆる「デコトラ」が登場する作品で、ドタバタの中にも悲喜交々な人間模様があり、さらには喧嘩やカーチェイスといったアクションの要素も含んだ異色のロードムービーである。もはやテレビでの放映は難しいだろうと思われる下品かつ猥褻なセリフやシーンが満載で、少年時代にテレビで放映されているのを観ていた筆者などは、当時でさえ、たいそう悪趣味ないかがわしい映画だと思っていた。しかし、これがいま見直すと本当に素晴らしいのである。

 内容は全10作ともほぼすべて同じようなもので、菅原文太演ずる星桃次郎(トラックは「一番星号」)と、愛川欽也扮する相棒の松下金造(トラックは「やもめのジョナサン号」、そのため金造はジョナサンと呼ばれている)が積荷の輸送のために全国津々浦々を走行するのだが、その途中、桃次郎はかならず偶然出会った美女に一方的な恋をしてしまう。

 

 このあたりは1968年からスタートしていた渥美清主演の「男はつらいよ」シリーズと同様のプロットである。そして幾多の事情が二転三転した末、桃次郎は愛する美女のために通常であれば不可能な時間内で遠方までトラックを爆走させなければならない羽目になる。最後にはとても無理と思われていたそのミッションを桃次郎が辛くも成し遂げ、大団円、一件落着と相成るのだ。

「トラック野郎」シリーズ全10作の監督をつとめた鬼才・鈴木則文の『トラック野郎風雲録』。シリーズ誕生の裏話から、各作品にまつわるさまざまなエピソードを知ることができる

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