(本記事はBizauthが提供する「BA BLOG」からの転載です)
日本のIT部門が25年間以上、苦悩を続けているの前回までの通り。今回からは、なぜそうなってしまったか、産業的かつ社会的な背景を議論していきたい。
まず初めに見ていきたいのは、経営とITの関係が、欧米企業と日本企業では相当違うという点だ。ここで言う「経営」とは、個別企業の経営者を示しているわけではない。日本企業の典型的な経営者群を示している。
実は、典型的な日本の経営者は、経済環境の制約によって、企業業績を上げる手段としてITを選択しずらいと筆者は考えている。経営者の置かれている環境や、日本のビジネス慣習がITを使った企業業績向上を阻んでしまうのだ。
もちろん、日本の企業にとっても、ITが今後の経営に重要であることは疑いもない。当然、この25年間、手をこまねいてきたわけではなく、さまざまなITの施策を取ってきている。しかし、これまで見てきたように、結果は欧米からは周回遅れの現状にとどまっている。なぜ、そのような結果になってしまうのだろうか。
企業とは、人が金を使って、モノやサービスを作り、提供する。この、人の部分、金の部分はITでかなり効率的、効果的になる。日本の経営者にも多く会っているが、総じて聡明であり、ITが持つ重要性や効能をかなり正確に理解している。こうした、ITの効能というのは、本能的にもよく理解していて、効果が出るならば、是非、積極的に投資をしたいと考えている。しかし、一方で、日本のITを周回遅れにしている責任の一端は、こうした経営者にもある。それは、どうしてなのだろうか。
欧米では、特に米国や英国のように比較的、労働市場が流動的で、自主独立の社会保障が基本概念として定着しているような国では、ITを用いた経営の効率性の向上は、経営の手段として考えやすい。
しかし、日本企業の場合、労働市場の流動性がまだまだ低く、退職金や年金について業種業界をまたいだ標準化が進んでおらず、個々の企業への依存度が高い。給与だけでなく、退職金の制度は個別企業に大きく依存し、さらには年金基金が個別企業にまだまだ大きく依存している日本では、ITの効能を十分に生かし切る環境が整っているとは言い難いのだ。
もう少し、このことを詳しく見てみよう。昔、世界の化学企業のIT投資、人件費と売り上げの関係を分析したことがある。
- 欧米企業では、総IT投資を増額させ、総人件費を減額させ、総IT+人件費を減少させつつ、売上増大を実現している
- 日本企業では、総IT投資は微減させ、総人件費は横ばい、総IT+人件費は微減しつつ、売り上げは一定である
置かれている経営環境が異なるので、一概にどちらが優れているとは言えないが、企業を評価する株主の立場から、どちらの経営が正しいかは一目瞭然である。こうしたことは、消費財産業でも、ホールセールの金融業でも起きている。最近、米Wells Fargoが日本の銀行業の中で着目を浴びているが、店舗に配置される銀行員の給与を低めに抑えて、IT投資を積極的に行う経営を見ていると、リテール金融でも同様のことが起きているのであろう。