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IT部門の苦悩(14):日本企業の「トヨタシンドローム」がITの有効活用を阻む

宮本認(ビズオース )

2018-09-17 07:00

(本記事はBizauthが提供する「BA BLOG」からの転載です)

 今回は、日本企業が持つ企業文化がITに悪影響を与えることに言及したい。女性には失礼な話かもしれないが、面白い話なので紹介したい。「一歩前へ」という注意喚起をご存じだろうか。男性用小便器の調度目線の高さに貼ってあるシールやプラカードだ。筆者が初めて見たのは、20年ほど前のトヨタ自動車本社での男性用トイレである。用を足す際に一歩前に出ることで、便器から尿が飛び散ることがなくなり、掃除のコストが下がるらしい。トヨタはここまでコストを下げようとするのかと、衝撃と感動を覚えた記憶がある。

 それから10年。東京のトイレでこのプラカードを頻繁に見るようになった。要は、普及したのだ。10年という月日は掛かったが、トヨタという企業が持つ日本での影響力を改めて感じるエピソードだ。

 前述したのは、小さな例だ。しかし、間違いなくトヨタ自動車は日本で一番尊敬される企業である。日本のみならず、世界でも1、2を争う自動車会社になり、圧倒的な品質の高さを誇っている。「カイゼン」「Just In Time」「目標管理」「横串管理」……。筆者も、大野耐一氏の書籍を何冊もむさぼり読んだ。ある意味、多くの日本人の誇りを体現しているトップ企業だ。当然、人材も優秀だ。経営人も素晴らしい。そして、現場の人々もまた素晴らしい。

 こうしたトヨタ自動車の経営哲学、経営手法というものは、多かれ少なかれ日本企業に影響力を持っている。効率を一つの目的として経営を図ること、雇用を大切にすること、人材育成を大切にすること、日本流のやり方を持って世界に進出をすること。枚挙にいとまはない。しかしながら、筆者は日本において、最も尊敬される企業がトヨタ自動車であるということが、他の日本企業のIT導入を阻んでいると考えている。

 まずは、過度に現場志向になるということだ。日本において、IT導入はユーザーのために行う。ユーザーに支持されないITの導入というのは、日本においては受け入れられない。現場の仕事をつぶさに調べ、業務を改善できるようにし、ユーザーの仕事が円滑になるように組み立てる。そうして、ユーザーがその気になると、「よし、やってみようじゃないか」となり、話は一歩前に進む。

 日本のユーザーは強力だ。現場と言い換えていいかもしれない。日本人は、現場好きな人が多い。現場こそが大切だという思想がある。現場で長く従事することで、思い通りに仕事ができる技術者になれる。単に報酬額だけではない、働きがいを感じる人材が多いのだ。ITの導入をしようとしたときに、しばしばこうした「主(ぬし)」のような人にぶつかる。あの人が納得しないと進まないというような人物だ。しかし、IT部門ではなかなかこういう障壁を突破できない。結果的にIT導入は停滞する。

 もう一つ。現場志向は、経営側の要求が乗数的に上がることを示す。現場の知恵と工夫が利益をもたらすと考える経営が多い。現場で知恵と工夫を出してきた人たちが経営についていることも多いから、その成功体験で経営のかじ取りを行う。IT部門が何か提案をすると、「さらに知恵を出せ」「もっと考えろ」と要求が飛ぶ。

 ITの導入担当者は血がにじむほど考え、さまざまな創意工夫を凝らしてITの導入案を考えることが望まれる。しかも、それはトヨタのように、驚くような低コストであることを期待される。なるべく多くのユーザーの希望や改善策を取り入れ、ベンダーに目を見張るような低コストで、しかも将来にわたって柔軟で拡張性があるシステムであることと同義となる。

 経営の立場からは、限界を突破しろということなのだろう。トヨタ自動車は、世界でも最高峰の強力な企業集団である。そして、実は膨大な費用をITに使って、物量でも圧倒できる存在でもある。一人ひとりの強さの裏打ちは、組織全体としての強さと両輪である。しかし、トヨタ自動車に感化された経営者には、こうした強い組織や巨大な調達力を持っている企業と同じことを、そばにおいて考える人も結構多い。日本最高、世界トップクラスの企業と同じような考え方や仕事のやり方を、普通の日本企業においても実現しろと指示が飛ぶことがあるのだ。

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