Hewlett Packard Enterprise(HPE)は11月27~29日にかけて、スペイン・マドリードで欧州向けの年次イベント「HPE Discover Madrid 2018」を開催した。初日の基調講演では、最高経営責任者(CEO)として初めて欧州の顧客やパートナー企業の前に立ったAntonio Neri氏が、エッジコンピューティングやハイブリッドITを中心としたビジョンを力強く語った。
エッジに大きなチャンス--サイバーとフィジカルの橋渡しが可能に
HPEのAntonio Neri CEO
事業の分社化というプロセスを経てHPEを軌道に乗せる任務を果たした前CEOのMeg Whitman氏からバトンを引き継ぐ形で、Neri氏は2018年2月にCEOへ就任した。HPEに25年近く勤務するベテランで、これまでもWhitman氏とともにDiscoverの基調講演に登壇し、技術をよく知る立場から説得力のあるメッセージを発してきた。今回、同氏は単独でステージに立ち、「HPEは変革を遂げてきた。今のわれわれには明確なビジョンがある」と自信を見せた。
まずは今秋発表した「Tech Impact 2030」を紹介した。社会の複雑な問題を技術の力で解決することを目的とした取り組みであり、世界経済フォーラムと手を組み、飢餓・医療・交通などの専門分野で研究開発をサポートする。
飢餓対策に関しては、食の安全性や生産効率の向上など、農業ITの領域で米パデュー大学への支援を発表している。Discover Madridの会期中には、メモリ主導型コンピュータ「The Machine」の検証環境「Memory-Driven Computing Sandbox」をバイオテックベンチャーのJunglaに提供すると発表した。アルツハイマーの研究を行うドイツの神経変性疾患センター(DZNE)とも技術提携を結んでいる。
「テクノロジを正しいことに使えば、多くの課題を克服できる。HPEは、人々の仕事や生活をより素晴らしいものにしようとする企業だ」とNeri氏。
HPEは、企業のデジタル変革を鈍化または阻害する要因として、「Technology(技術)」「People(人々、文化)」「Economics(経済)」の3つを挙げる。それぞれについて支援するのが同社の戦略になる。具体的には、既存資産の“ロックイン”解除、技術変革による資本の解放、アプリとデータによるイノベーション創出というステップになる。
HPEの戦略はエッジ・クラウド・データの3つを活用する技術をサービス提供。「Technology(技術)」「People(人々、文化)」「Economics(経済)」の側面から企業のデジタル変革を支援する。
Technologyでは、データの爆発とIoT(モノのインターネット)というトレンドに対して、エッジとクラウドの両面で対応する。「企業が全てのデータを管理、活用する技術を提供する。スピーディにアクションを取り、俊敏性を確保して競争優位に立つための支援をする」とNeri氏。
Neri氏は6月に開催されたDiscover Las Vegasにおいて、今後4年で40億ドルをエッジ技術に投じると発表した。その背景について、「企業はわずか6%のデータからしか価値を得られていない」というGartnerの調査結果に触れた上で、2023年にはデータのほとんどがエッジで生成され、アクションを取ることになるという予測を紹介した。「データは潜在的な価値を持つ。洞察とアクションを加速し、人々の生活とビジネスを変える。そして世界を変えることができる」
「エッジ側で技術をうまく使えば、デジタルとフィジカルの世界を橋渡しできるチャンスがある」とNeri氏。小売店舗ならパーソナライズショッピング、オフィスならスマートワークプレイス、学校ならデジタル授業など、さまざまな例が考えられる。エッジ技術に関する詳細は、PE Arubaを率いるKeerti Melkote氏の講演内容を別記事でまとめる。
ここで重要なのは、エッジとクラウドとの協調だ。Neri氏はクラウドについて「目的地ではなく体験」と表現する。「クラウドは、開発者がアプリを構築し、データを使って継続して改善するという体験だ」(同氏)。そのためには、複数のパブリッククラウド、プライベートクラウド、オンプレミスと、オープンかつシームレスに連係しなければならないと述べる。
「現在のクラウドは“1.0”だ。クローズドかつプロプライエタリで柔軟性がない」とNeri氏。実際に多くの顧客は、さまざまなクラウドや技術を組み合わせたハイブリッド環境を取っているが、1.0はこのような状況を念頭に置いたものではないと指摘する。
これに対するHPEの戦略は「コンポーザブル」だ。「コンポーザブルなクラウドを作る。あらゆるクラウドにオープンであり、パートナーの技術を統合できる、ベアメタルまで含めてコンポーザブルな体験を提供する」とNeri氏。
HPEは2015年のDiscover Londonで「HPE Synergy」を発表。現在の顧客数は1700社に達しており、「HPEの歴史で最も早く10億ドル事業になる」という。Discover Madrid 2018の会期中には、「HPE Composable Cloud for ProLiant DL」「Composable Cloud for Synergy」などを発表。コンポーザブルアーキテクチャをデータセンター全体に拡張する方針を打ち出した。
27日にはBlueDataの買収も発表された。企業が人工知能(AI)とビッグデータをサービスとして容易に活用できるソフトウェアを提供するベンチャーで、今後はHPEのデータ戦略に取り込まれていく。HPEの最高セールス責任者でハイブリッドIT担当プレジデントを務めるPhil Davis氏は、「AIとビッグデータ環境の立ち上げと展開を数分で行える」と説明した。
ハイブリッドITを念頭にしたエッジからクラウドまでのアーキテクチャでデータを管理するに当たって重要になるのがAIだ。HPEはここで、Nimble Storageの買収により取得した技術「HPE InfoSight」を提供。直近では3PARのストレージもInfoSightに対応したが、今後はデータセンター全体に拡大するという。ネットワーク側では、「Aruba Introspect」でAIを活用した保護を実現している。
また、深層学習などに必要な処理能力という点では、メモリ主導型などの新しいコンピューティング手法を用意する。
クラウドのコンサル事業、消費型モデルを提供するPointnext
Peopleについては、「Technology、People、Economicsの3つで最も難しい」という部分だ。ここでHPEはサービス事業「HPE Pointnext」を立ち上げ、企業をサポートしている。
特に導入が容易とされるクラウドについては、「アドバイスサービスを事前に利用していないプロジェクトの90%は失敗する」という。HPEは2017年にAmazon Cloud Services(AWS)を得意とするクラウドコンサル企業のCloud Technology Partners(CTP)を、2018年4月にはMicrosoft Azureを得意とするRedPixieを獲得。「パブリッククラウドを利用した変革を支援できる専門家を2000人そろえている」とNeri氏はアピールする。
Pointnextはまた、従量課金サービスを「GreenLake」ブランドで提供している。「クラウドは体験」とするHPEの戦略にとって重要なものだが、ここは3つ目の「Economics」にもつながる。Economicsについてはさらに、ITの投資、消費、資産などを包括的に支援するHPE Financial Servicesを提供する。
Neri氏は最後に、「HPEには明確なビジョンがある」と会場に伝える。「インテリジェントなエッジを構築している。新しい市場の推移が迫っており、この推移をリードする」と続け、「業界に先駆けて」提唱しているハイブリッドITとともに変革をけん引すると約束した。
(取材協力:日本ヒューレット・パッカード)