調査

「世界のどこにいても適材を認識できる」--日立は人事SaaSをどう使っているのか?

末岡洋子 2019年02月13日 06時00分

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 グローバル企業といっても、そう簡単に転身できるものではない。これまでの日本のやり方へのこだわりを捨てようと、ビジネスだけではなく人事でも変革を進めているのが日立製作所だ。数年がかりの大プロジェクトではクラウドのパワーを活用し、日本も世界も全て同じ「Workday」を使う。グローバル人事を統括するLevent Arabaci氏は、「世界のどこにいても、その仕事に適した人を見出すことができる人事システム」と狙いを説明する。Arabaci氏に、日立で進んでいる人事の刷新について聞いた。

終身雇用では人事のベストプラクティスが育まれない

 日立が人事システムの変革に着手したのは2012年のことだ。2011年、当時トップを務めていた中西宏明氏(現・取締役会長兼代表執行役、日本経済団体連合会長も務める)が発表した事業変革の一部として、人事システムの刷新を進めることになった。具体的には、1000以上ある子会社がバラバラに構築していた人事システム(Excelベースのものも多かったという)をWorkdayに標準化するというものだ。

 Arabaci氏はそれ以前、日立データシステム(現在Hitachi Vantara)で人事インフラを構築した手腕を買われ、2012年に日立に加わり、それ以降はグローバルHRトップとしてWorkdayの実装を進めている。

 Workdayはクラウド人事システム大手で、日本でもユニクロ、日産自動車などの採用事例がある。だがArabaci氏は、日立の大きな特徴として、「グローバル」「標準」を挙げる。「我々はグローバルなチームを作って世界共通のシステムを構築している。グローバルなマインドセットで設計している」(Arabaci氏)であり、これを「意識的に行った」という。その結果が日本、米国、欧州で約60人のグローバルチームとなる。

 グローバルにこだわったその理由は、「日本の大企業の多くが、日本で設計して世界に展開しようとする。だが、その方法では失敗が多い。日本のマインドセットで設計しているからだ」とArabaci氏は説明する。「日本のみを前提としているものはない。“国境なし”が前提だ」(同氏)

 人事では特に、日本とそれ以外の違いは大きい。終身雇用、年功序列の考え方が根強く残る日本に対し、世界では就職のプロセス、評価と給与の仕組みが主として専門と能力ベースだ。

 「日本では就職とは、大学を卒業してある企業に入社すると一生そこで働くことを意味することが多い。日立に入ってくる日本の社員は他の企業を経験したことがないので、人事のベストプラクティスを考える必要がなかった」(Arabaci氏)。これは日本企業にとって「不利になっている。ベストプラクティスがないので、これがベストと思っている」という。

日本発ではない、グローバルの人事システム

 Arabaci氏は、Workdayの実装を段階的に進めてきた。最初に土台となる人事データベースを構築し、その上でアプリケーションの構築を進めた。実装は、フェーズ1として最初に着手したのが8つの子会社(29カ国)、従業員3000人を対象にし、フェーズ2では、主に日本を中心として従業員数では4万5000人規模、2018年に本格稼働を始めている。

 現在取り組んでいるのがフェーズ3、そして、フェーズ4で、残りの子会社で実装を進めて完成させる。グローバルで全てWorkdayの実装を終えた後、2021年度より全社レベルでの稼働を開始する予定だ。

日立製作所でグローバル人事を統括するLevent Arabaci氏
日立製作所でグローバル人事を統括するLevent Arabaci氏

 人事で目指すものについてArabaci氏は、「正しい人を正しい場所に」と説明する。「ある任務や仕事に対して、本当に適任な人を選ぶ、これは簡単なことではない。どうやって人を認識するか、ここでWorkdayのシステムが役に立つ」(Arabaci氏)。適切な人に任務を任せることで、日立はさらに成長できる。人事システムはそこで重要な役割を果たす。それまでは、どんな能力を持った人がどこにいるのかは分からず、報酬や評価もバラバラだったので人材の比較も簡単ではなかった。

 現在は明確なパフォーマンス管理を導入し、従業員は目標を設定してそれを満たすための努力をしなければならない。これは働き方の変革ももたらしているという。また、システムを一つに標準化することはコストの削減も図れている。

 Workdayを選んだ最大の理由はクラウドだ。約6~7年前に検討した際、Workdayは日本での存在感は大きくなかったが、他の人事クラウドと比較した時に、単一バージョン、単一の情報源、単一コードなどを総称するWorkdayの”Power of 1”が決め手となった。「単一のコードを土台としており、その上に柔軟性を構築できる」とArabaci氏。

ベンダーとともに成長する

 日立の事例で興味深いのが、Workdayの「Prism Analytics」をいち早く導入している点だ。Prismは2017年に発表した機能で、外部のデータをWorkdayに統合して分析を行ったり、洞察を得たりできるというもの。本格稼働に入った段階では5万人を対象としていたが、間接雇用者などWorkdayを使っていない人がまだ30万人残っていた。Prismにより、その人たちも対象に分析ができるとArabaci氏はいう。このように、最新の技術を使うことでベンダーの開発にも影響を与えることができる。「日立に限らず、日本の大企業は複雑。日立と関わることでWorkdayも顧客へのアプローチなどを学んでいるのではないか」とArabaci氏。

 まだ完成の途中にあるが、Workdayが稼働に入ったところではログインを始め、利用状況を測定しながら進めている。最も難しいと感じているのは、マインドセットを変えることだという。「人は変化を嫌うもの。特に日本の人は変化を嫌がる」(Arabaci氏)。自身も世界の子会社を訪問して説明し、ビデオでのメッセージを伝えるなどの工夫を凝らした。「日立にとって良いこととは言わず、日本にとって良いことと説明した」という。

 一方で、日本の良いところとして「いったん意思決定すると全員が動くこと」を挙げる。Arabaci氏らのチームもWorkdayの利用状況を全体に知らせ、「使ってくれてありがとう」と伝えているとのこと。また、従業員への年1回のアンケートを人事でも活用したいと考えている。

 「日本は人口減少、高齢化により人材も縮小傾向にある。市場そのものも小さくなっており、全ての企業がグローバルになる必要がある。それには人材をグローバルに考える必要がある」とArabaci氏、日立は日本を代表する企業であり、その日立が変化することで日本に大きな影響を与えたい、と思いを語った。

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