小売業界は新しい技術の導入が遅れがちだとされているが、ユニファイドコマース(店舗内からオンラインまでシームレスにつながったショッピング体験を意味する包括的な用語)が台頭し続けていることで、最近では小売企業でもテクノロジの移行とクラウド利用について検討する機運が高まっている。今、多くの小売企業が直面している課題は、選択肢が多すぎて、クラウドに関する複雑な判断をどう下していけばいいか分からないということだ。
主要なクラウド企業の中でも、ハイブリッドクラウドへの移行を重視しているIBM(同社はクラウド市場ではハイブリッド化やマルチクラウド化が進むことに賭けて多くの投資を行っており、これには340億ドル規模のRed Hatの買収も含まれる)は、複数のシステム、サービス、プロバイダーを管理する役割を担う、クラウド分野の「管理コンソール」企業だとして小売業界にアプローチしている。
IBMのプラットフォームは複数のクラウド環境と連携するため、小売企業に複数のクラウドを自由に組み合わせられる柔軟性を提供できる。小売企業では、各ブランドの製品在庫管理や顧客ロイヤルティプログラム(ポイントサービス)などの多様なアプリケーションやユースケースに対応する必要があるため、複数のクラウドプロバイダーやクラウドを利用することは珍しくない。
このアプローチは、主に顧客の要求に応じるためのものだ。最近の買い物客は、パーソナライズされた、リアルタイムの、ネットワークと連携した購入体験を求めている。小売企業がこれを実現するには、既存の複雑な物理的インフラとデジタル化によるモダナイゼーションをすり合わせる必要がある。
しかし、IBMの戦略および業界エコシステム担当バイスプレジデントChris Wong氏によれば、今日の小売企業は、主に経費削減と弾力性改善の手段として、基本インフラの移行を進めようとしている。小売企業のサービスの多くは、まだオンプレミスで動いている。しかしこの状況は、小売企業が次世代のアプリケーションやサービス、本社レベルから各店舗の店員までを含む新たなワークフローを構築しようとするにつれて、徐々に変わりつつあるとWong氏は話す。
「導入は急速に進んでいるものの、小売企業を含む多くの企業は、まだその初期段階にある」とWong氏は言う。「われわれは当初、データセンターを利用している小売企業を対象としていたが、今後はデータセンターや本社だけでなく、店舗にも取り組みを広げていきたいと考えている。店舗には、高可用性を必要とするミッションクリティカルなニーズがあるため、小売企業はこれまでこの部分に手を入れることに消極的だった」
Wong氏は、IBMは店舗レベルで可用性の高いインフラを確保しつつ、これにクラウドを組み合わせることで効率と柔軟性も実現できるような、さまざまなソリューションに取り組んでいるという。また小売企業はAIやブロックチェーン、オートメーションなどの周辺技術についても検討していると同氏は述べている。