1989年3月、Tim Berners-Lee氏は、当時の上司であるMike Sendall氏に、ある情報管理システムの提案書を提出した。Sendall氏の反応は、「ぼんやりしているが、面白そうだ」というものだった。これが現在のウェブになったのはご存じの通りだ。その後、さまざまなことがあった。
Berners-Lee氏は当時、「あらゆる場所のコンピュータに保存されている情報が、すべてリンクされているところを考えてみてほしい。自分のコンピュータをプログラムして、あらゆるものを、あらゆるものにリンクできる空間を作れると考えてみてほしい」と書いている。もちろんわれわれは、それを想像してみる必要はない。世界はすでにそうなっている。
Tim Berners-Lee氏
どこでも利用でき、簡単にアクセスできる、ネットワークを使った知識システムのアイデアを掲げたのはBerners-Lee氏が初めてではない。Vannevar Bush氏は1945年7月に、「As We May Think」と題した論文を発表している。また個人的には、Ted Nelson氏がハイパーテキストのビジョンを掲げて1960年にスタートさせた「Xanadu」プロジェクトが、ウェブのあり方にそれ以上の影響を与えたのではないかと考えている。その後、Appleのエンジニアが開発した「HyperCard」は、Berners-Lee氏に先んじてハイパーテキストシステムを実現した。ただしHyperCardはネットワークへの意識が薄かった。
従って、ハイパーテキストの夢から現在のウェブを生み出したのは、Berners-Lee氏だったと言える。1990年、Berners-Lee氏はSteve Jobs氏によるNeXTのコンピュータ(Appleの「Macintosh」の直系の子孫とも言えるコンピュータ)を使って、最初のウェブサーバ(info.cern.ch)を構築した。1991年には、欧州原子核研究機構(CERN)のほかのユーザーが「WorldWideWeb」を利用できるようになった。
WorldWideWebはこの後数年間、学術界などで少しずつ広まっていった。
筆者がこの世界を初めて体験したのはその頃で、1993年4月にウェブについての初めてのレビュー記事を書いている。筆者はその中で、「ワールドワイドウェブ(ウェブ)はまだ開発中のプロジェクトだが、誰でもアクセス可能で、インターネットで情報を集める者たちにとって大きな力になるものだ。ウェブは、インターネットにハイパーテキストをもたらした」と書いている。
この記事は、「残念ながら、現時点でのウェブは、可能性を感じさせるだけのものにすぎない。ウェブサーバを利用するには、info.cern.chかnxo01.cern.chにtelnetするしかない。今のところ完全にハイパーテキスト化された情報は限られているが、その量は増えつつある。ウェブは未来の情報の波だと言えるだろう」と締めくくられている。
筆者はウェブを過小評価していた。ウェブは結局、AOL、CompuServe、Genieといった当時主流だったオンラインサービスを圧倒する大波になった。当時、ウェブが世界を変えると考えている者は誰もいなかった。