日本マイクロソフトは5月29日から2日間、開発者向けの年次イベント「de:code 2019」を開催している。初日の基調講演では、Microsoftが米国時間5月6日から開催したグローバルイベント「Build 2019」の発表を踏まえ、代表取締役社長の平野拓也氏が「ベースがMicrosoft Azure、その上にMicrosoft Dynamics 365 & Power PlatformとMicrosoft 365、そして新たに注力するプラットフォームとしてMicrosoft Gamingと4つのクラウドプラットフォームでDX(デジタル変革)を推進し、パートナーを巻き込んでダイナミックなビジネスを進める」と表明した。
日本マイクロソフト 代表取締役社長の平野拓也氏
パートナービジネスについて平野氏は、Build 2019で劇的に発表したソニーとMicrosoftの戦略的提携に向けた意向確認書を締結にも触れ、「今後はMicrosoft Azureを活用したゲームやコンテンツのストリーミングサービスを通じたソリューション共同開発や、Microsoft AI(人工知能)技術をソニーのコンシューマー製品における採用の検討と、半導体分野ではインテリジェントイメージセンサーの共同開発を検討する」と述べた。締結時に同氏も現場に同席したといい、「(ソニー 社長 兼 CEO 吉田憲一郎氏とMicrosoft CEO Satya Nadella氏の)両CEOの意気投合具合に興奮した」という。
事例としては、トヨタ自動車の新たな取り組みを発表した。トヨタ自動車は、従来の紙やウェブによる作業手順書や修理書の3Dデータ化を検証しており、現場の整備士はMicrosoft HoloLensを装着し、作業を行う部位にホログラフィックとして映し出された3Dデータの作業手順書や修理書を通じて、整備作業に取り組む。日本マイクロソフトによれば、トヨタ自動車は、2019年内にMicrosoft HoloLens 2を導入し、同ソリューションをトヨタ系列の販売店へ順次展開する予定。作業手順書や修理書の3Dデータ化には、Microsoft HoloLensを通して作業手順を3Dで表示するDynamics 365 Guidesを使用し、併せてAzure AIを活用して作業ミスや作業漏れを検出する機能の開発と検証を、Microsoftとともに実施するという。
基調講演では、アセントロボティクスと日本マイクロソフトによる、クラウドを活用した自動運転テクノロジーの開発に向けて協業することも発表された。アセントロボティクスは2016年に創業し、自動運転車やロボティクス分野におけるAIソフトウェアの研究開発に取り組む企業だが、「従来の自動運転システムはインフラやセンサーが整備された環境でしか走れない。異なる場所では再プログラミングが必要になる。われわれはこの課題に対して、経験から学び取るアルゴリズムを使用した機械学習を採用し、一度学習して組み込んだシステムは追加不要だ」(アセントロボティクス 代表取締役CEO 石﨑雅之氏)と説明する。アセントロボティクスは、Microsoft Azureの活用と日本マイクロソフトのパートナーエコシステムによって社会課題の解決と事業拡大を目指すとした。
アセントロボティクス 代表取締役CEOの石﨑雅之氏
基調講演にはMicrosoft側から、Microsoft 365やMicrosoft Azureなどの担当副社長とMicrosoft HoloLens 2担当のテクニカルフェローも登壇した。
Microsoft 365を担当するMicrosoft CVPのJared Spataro氏は、Thomas Stearns Eliot(トマス・スターンズ・エリオット)の「知識に埋もれて、知恵が見つからず」の言葉を「情報に埋もれて」と置き換えつつ、「自らに問う。職場でも家庭でも起きるイノベーションは、ランニングマシンのスピードが加速しているように思わないだろうか」と、生産性の再定義が必要であると強調した。その文脈において、「現代はアプリもデバイスでもなく人が中心。人に焦点を当てることで、人々の生産性が向上し、人生を楽しめるようになる」と、Microsoft 365各ソリューションの活用を来場者に勧めた。
Microsoft CVPのJared Spataro氏
具体的な活用方法として同社は、Outlook Mobileにメールで交わした約束を思い出させるアクショナブル(操作可能な)メッセージを使えば「予定表を自動でブロックし、受信トレイから離れなくて済む」(Microsoft VP, Clinical OperationsのMary Shepherd氏)とアピール。Microsoft Teamsもスマートフォン版からビデオ会議に参加し、Windows 10における集中モード(任意レベルの通知を抑制する機能)の活用や、Chromiumエンジンに切り替わったMicrosoft Edgeが搭載するCollection機能(画像などウェブコンテンツを独自収集する)では「必要なコンテンツ収集を容易にし、そのままExcelやWordにエクスポートできる」(Shepherd氏)と紹介した。
また、Wordが今後持つアイデア機能にも触れ、「略語や表現の変更機能は、つづりや文法以外にも役立つ」(Shepherd氏)と説明。Wordに追加したい内容を示した一文をAIが検知し、タスク化するオプションも今後提供されるという。同僚の名前を追加すればメール送信の自動化も可能だ。これら新機能の背景にはMicrosoft Graphが存在する。「Microsoft 365使用時の動作を観察し、バックグルアンドでライングラフやノード、それらをつなぐエッジを作成。検索や分析を通じて各種サービスを提供している」(Spataro氏)と明かした。
Microsoft 365のデモンストレーションを担当したMicrosoft Senior Product Manager, Microsoft 365のMary Shepherd氏
Windows 10に関しては、JavaScriptライブラリであるReactの開発者が、Windows 10を対象に含められるReact Native for Windows、オープンソースソフトウェアとして開発中のWindows Terminal、Windows 10でLinuxの実行環境を大きく改善するWindows Subsystem for Linux 2を披露した。Office 365に関しては、コンテンツの共同編集を容易にするFluid Frameworkを紹介し、「開発者が各ブラウザにエクスペリエンスを構築し、人とアプリの間にある障壁を打破できる新たなテクノロジー」(Spataro氏)と説明した。デモンストレーションでは、約2000マイル(約3219km)離れた場所へ入力結果が、ほぼリアルタイムに反映する様子や、日本語で入力した文章が8つの他の言語に同時翻訳する様子を披露。新しいMicrosoft Edgeが搭載するIEモードやプライバシー設定、Microsoft Teamsが新たに供えるファーストラインワーカー向け機能を紹介していた。
Microsoft AzureやSQL Serverなどを担当するMicrosoft CVPのJulia White氏は、多くの新機能を紹介。ブラウザベースの開発支援ツールであるVisual Studio Onlineや、YAML定義のCI/CDを使用した統合パイプラインであるAzure DevOps、GitHubとAzure Active Directoryの同期サポート、GitHubアカウントを用いたMicrosoft Azureへのサインイン、Visual Studio+GitHub Enterpriseの統合サブスクリプション、そしてJEDA(Kubernetesベースのイベント駆動型自動スケール)をアピールした。
Microsoft CVPのJulia White氏
デモンストレーションでは、Azure DevOpsとGitHubの連携、Azure Sphereを用いてAzure IoT CentralやAzure IoT Plug and Playを利用した開発例、Azure KinectとAzure Cognitive Serviceを連携して音声をリアルタイムでテキスト化するなど、複数の使用例を示した。
その中でAzure Cognitive Servicesには、パーソナライズしたユーザー体験(UX)の作成をサポートするPersonalizerや、手書き文字をテキストへ自動変換するInk Recognizer、カメラで撮影したフォーム形式のデータを抽出するForm Recognizer、対面会話型のリアルタイム文字起こし機能のConverssation Transcriptionが新たに加わる。同じくAIの文脈では、没入型検索を実現するAzure Cognitive Searchの一般提供開始(GA)、Azure Machine Learningで使用する自動機械学習のUIやMLOps、UIツールの更新、FPGAを使用したハードウェア高速化モデル、NVIDIA、Intelチップ向けのONNXランタイムのサポートに触れた。
「データ+分析」での文脈は、データベースが主なテーマとなる。ストレージスケールアウトも無制限に対応可能なAzure SQL Database HyperscaleのGA化、シームレスにスケールアウトし、無限のクエリとノードに対応するAzure Database for PostgreSQL Hyperscale、パフォーマンス単位や秒単位で課金するSQL Server互換のAzure SQL Databaseサーバーレス、ARMプロセッサー環境に最適化してWindowsやLinuxをサポートするAzure SQL Database Edge、Azure Cosmos DBには、データベース内のトランザクションデータに対するSparkの組み込みサポートや、機械学習モデルの構築・運用、Jupyterノートブックの組み込みサポートが加わった。