クラウドサービスは、病院や医療システムにおいてデジタル変革の原動力として利用されている一方で、製薬会社においては自社の業務をより根本的な方法で改革するための柱として利用されている。
コンピュテーショナルドラッグディスカバリーは、クラウドコンピューティングと人工知能(AI)を組み合わせて創薬プロセスを迅速かつ安価にしようという取り組みだ。大手製薬会社は、この新たなアプローチを評価するうえで、AI分野での進歩とクラウド分野における計算能力という利点を積極的に生かそうとしている。このテクノロジー駆動プロセスを使用することで、製薬会社は従来型の薬剤だけでなく、DNAやRNAのレベルで作用して疾病を治療/予防するという新たなカテゴリーの薬剤を開発できるようにもなる。つまり、ハイパースケールなクラウドプロバイダーは、こういった創薬プロセスにとって必要不可欠なパートナーとなるのだ。
13%という創薬の成功率を向上させる
この新たなプロセスが製薬業界にとって革命的となる理由を理解するには、米国で新薬が開発されるまでの流れを理解する必要がある。現在のプロセスは、時間がかかり、リスクが高く、高価なものとなっているのだ。
製薬会社が新薬の開発を始めるにあたってはまず、疾病と、治療や予防に結びつく有望な分子構造の洗い出しが研究チームによって実施される。次に第2段階として、洗い出された化合物の可能性が探究される。そして使いものになりそうな化合物が見つかった場合には、第3段階となる臨床試験が開始される。こういった段階を経て最後に米食品医薬品局(FDA)からの承認を得るということになる。つまり創薬プロセスは、これら複数の段階すべてをクリアしなければならないため、長く、コストのかかるものとなっているわけだ。開発対象の薬剤にもよるが、第2段階をクリアするには700万〜1900万ドル(約7億〜20億円)のコストがかかる可能性があり、第3段階のクリアには1150万〜5290万ドル(約12億~56億円)ものコストがかかるとされている。しかも、このプロセスを開始したとしても、最終的に製品化されるのは全体の13%程度でしかない。
研究者らは、創薬プロセスの初期段階で成功の確率を高めるためにコンピュテーショナルモデリングを利用している。このモデリングによって、どの薬剤が患者にとって最も安全であり、副作用が少ないのかを洗い出せるようになる。開発初期の段階で賢明な選択ができれば、有効な新薬を生み出せる可能性とともに、既存製品の改良に結びつく可能性も高められるのだ。
ここがクラウドの活躍するところだ。製薬会社は、ハイパースケールなクラウドプロバイダーが有しているコンピューティング能力と、迅速に運用規模を拡大/縮小する能力を必要としている。AWSやAlphabet(Google)、Microsoftは、創薬に向けたこの種のアプローチを支援するために、大手製薬会社や新興企業と積極的に協力している。