課題解決のためのUI/UX

防災で考える情報デザイン--潜在的な危険を適切に注意喚起するには

綾塚祐二

2019-10-08 07:00

 まだシーズンは終わっていないが、2019年も幾つかの台風が日本列島に大きな被害をもたらした。台風の進路予報など防災に関わるような情報をいかに伝えるかは、人の命にも関わるものであり情報デザインの中でも特に注意深く考え続けなければならないテーマである。

 ユーザーエクスペリエンス(UX)やユーザーインターフェース(UI)をはじめ、あらゆる知見を総動員して取り組むべき課題とも言えよう。情報を発信する側だけでなく、受け取る側もしっかりと考えねばならない。今回は、こうした防災情報に関する話やリスクコミュニケーションについて考える。

正しく適切に注意喚起する

 災害などに関する情報を伝える際に重要なのは、まず「正しく伝える」こと、そして「適切に注意喚起するように伝える」ことである。「正しい」情報を伝えても、情報が不十分であったり、理解が難しかったり、誤解しやすかったりすると、適切に注意喚起できず、目的を果たせないかもしれない。「注意喚起」したいからといって、例えば虚偽や誤解を招く内容をわざと盛り込んだりしてはいけない。極めて当たり前のように思えるだろうが、これらの大前提を常に思い起こし、確かめるべきである。

 障害になる要素はいろいろとあるが、伝えられる側に十分な知識があるとは限らないということに加えて、人間の心理的性質などからくるなれや偏りなどが大きな壁となる。人間は何事にも良くも悪くも「なれ」てしまうので、一度うまくいったからといって、次もうまくいくとは限らない。

 伝える側は、そうしたことを念頭に伝え方の工夫を続けなければならない。

備えを無駄と考えない

 正確な予測ができない災害への対策には、最悪の事態を想定した備えが重要である。しかし、「防災予報に注意喚起されて十分に備えたけど、結局大したことは起こらなかった」という体験が繰り返されると、同じような災害予報などに対して「あまり備える必要はないのでは?」と思いがちになり、油断しやすくなる。

 誰もがまずしっかりと身に付けるべき知識は、こと災害に対しては「予報に対してしっかり備えたが大したことは起こらなかった」ということは「喜ばしいこと」であると認識すべきであるということである。また、「備えていなかったが、大したことは起こらなかった」というのは運が良かっただけに過ぎないと認識すべきである。

 そのためには組織や社会としても「備えた」ことに対してプラスの評価がされるようにすべきである。具体的なインセンティブがあってもいいであろう。その点は、ヒューマンエラー対策とも同様である。軽微なミスや事故でも気兼ねなく報告でき、むしろ推奨され褒められるような雰囲気が醸成されている組織は大きな事故を起こしにくい。

注意喚起のためのデザインの例:警報音

 注意喚起のために綿密にデザインされた例として有名なのは、緊急地震速報の警報音である。NHKテレビで流れる警報音は、音響学などを専門とする研究者で、現在東京大学の名誉教授でもある伊福部達氏によってデザインされた。聞いたときに感じる緊張感や不安感、また耳の機能が衰えた人たちへの聞こえやすさなどにも配慮されており、同氏の叔父であり、『ゴジラのテーマ』の作曲などでも有名な伊福部昭氏の楽曲のフレーズをベースに作られている。

 伊福部達氏の研究の道のりとそれがどう警報音のデザインにつながっていったかの詳細は、書籍『ゴジラ音楽と緊急地震速報 ~あの警報チャイムに込められた福祉工学のメッセージ~』に書かれている。分かりやすく充実した内容なので、興味のある方はぜひ読んでみていただきたい。

 携帯電話の警報音は環境音楽家の小久保隆氏の手によるものである。こちらも、さまざまな調査や考慮の上にデザインされており、その内容はいろいろなインタビュー記事などで語られているので、興味のある方は探してみていただきたい。

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