本連載では、電子契約の概要、仕組みや課題、また活用時に念頭に置くべき4つの法令などを紹介してきました。今回は、具体的なメリットとデメリットについて解説します。
日本にしかない印紙税や書類の保管費用も削減
電子契約のメリットの一つはコスト削減です。紙の契約書を交わす場合、契約書の種類と金額に応じて印紙税が課税され、契約する当事者で負担する必要がありますが、電子契約の場合はこの印紙税が発生しません。
印紙税は、今や日本以外の先進国ではほとんど残っていない制度です。外国で紙の契約書を締結すると印紙税はかからず、グローバルな取引が増加している現在において運用しにくい場面が出てきています。また、契約件数が多くなるほど企業の負担が増えていきます。電子契約に切り替えることで数千万円単位でのコスト削減につながった例も数多くあります。

“紙”ならではのさまざまな課題もある
書類の保管コストも削減できます。決算書類などの会計帳簿や税務書類は、7~10年の保管期間にあわせて保存、管理し、税務署の調査などがある場合、すぐに提示できるよう準備しておく必要があります。企業規模が大きいほど書類の保管コストも高くなります。
前回、電子帳簿保存法について取り上げましたが、電子データで保存すれば書類の保管コストが不要になります。クラウドサービスを使えば、火事や水害などの災害対応にもなります。
細かいコスト削減効果としては、用紙や封筒などの事務用品費、プリンターなど印刷に関わるランニングコスト、郵送料などの通信費も削減でき、さらにはこれらの事務処理のための人件費も削減できます。1件1件は小さなコストですが、年間を通してみれば大きな費用になっていきます。
決裁プロセスの停滞を減らす
もう一つのメリットは業務の効率化です。紙の書類の場合、契約書の社内の決裁プロセスをまわすのに数日から2週間程度かかることもめずらしくありません。
複数の決裁者を通す場合、フロアやビル、支店が異なる場合など、書類運搬の時間とコストがかかります。決裁者の一人が出張や休暇で休みの場合、そこでストップしてしまい処理が滞ることもあります。頻繁に発生しないものの、書類が途中で行方不明になる、という事故もあるでしょう。
なかには、契約書を締結する前にプロジェクトがスタートするような経験をお持ちの方もいるかもしれません。通常時は問題にならないかもしれませんが、いざトラブルが発生した際に契約書がないと、問題がこじれてしまいます。裁判になれば社会的な評判に影響したり、コンプライアンス体制を問われたりすることにつながります。