企業のアプリケーションやインフラストラクチャーを危機的状況から保護すべき理由 - (page 2)

河村浩明 (ソーラーウインズ・ジャパン)

2020-05-25 06:00

 今後、一時的とはいえ、事業戦略そのものを移行していく企業も出てくると考えられています。例えば、オーストラリアでは、およそ130社が医療従事者用の個人用防護具(以下、PPE)の製造に移行しています。日本では、政府の要請を受けて川崎重工業や三菱自動車工業などの大手機械メーカーや自動車メーカーが、PPEや人工呼吸器の生産支援を開始しています。このような新たなるプロセスに伴い、インフラストラクチャーのパフォーマンスや健全性に対する影響を考慮することが重要となります。また、サプライチェーンが変容していく中では、このような大きな変化への対応として、フルスタック監視が求められています。

 需要の急増に対応している企業は、お中元商戦やクリスマスなどのギフトシーズンに向けて準備するオンライン小売業と類似した状況にあるかもしれません。定期的に激しい需要期を迎える企業は、新たな戦略に際しても、既に基礎となる知識を持っています。

 一方、そのような定期的な需要期を持たない企業は、需要の変動に向けた知識を養う必要があります。第一に着目すべきは、古今東西を問わず、カスタマーサービスです。新型コロナウイルス感染症発生以前に行われた、顧客期待度に関する調査(PDF)によると、63%の顧客が、既に経験しているサービスと比較して、より良いサービスを受けた場合には競合他社に乗り換えると回答しています。

 現在、スマートフォン向けの食料品販売アプリのダウンロード数が記録的に増加しています。米国では、Instacart、Walmart Grocery、Shiptが、前月比較で1日の平均ダウンロード数がそれぞれ218%、160%、124%増加しています。日本でも、スマートフォン向けアプリを利用した宅配注文とオンラインショッピングの購買行動は、それぞれ40%、28%と急増しています。

 また、Amazonは、オンライン購入によるバックログを埋めるために、10万人の新規雇用が必要になると述べています。これらは極端な需要変動の一例ですが、企業の規模を問わずに、このような変動は生じます。既にデジタル化に依存している事業にとって、デジタルの重要性は加速していくでしょう。

 需要が急激に変化する際は、往々にして、他のアプリケーションへの波及効果が同時に生じ、仮想環境における「うるさい隣人問題」が発生する可能性があるため、危険を冒すには適していません。

 仮想化の時代には、仮想CPUの100%をアプリケーションに割り当てていたかもしれませんが、基礎となる物理的なCPUリソースが、監視されていないコンピュートリソースを大量に消費するシロモノと共有されていた場合、アプリケーションに悪影響を与えることが考えられます。今日の状況にも同様のことが言えますが、今ではクラウド環境が一層大規模になっています。キャパシティーオンデマンドクラウドアーキテクチャーでは、基礎となる保証された実際のリソースと同程度のパフォーマンスしか発揮できません。大容量のサイズが余っていることでコストの無駄遣いにつながってしまう一方、サイズが足りないとパフォーマンスに影響を与えます。つまり、全てを常に監視することが重要となります。

 過剰な需要は、共有インフラストラクチャーに影響を及ぼします。また、アプリケーションの数を増やせば、「うるさい隣人問題」が発生する可能性が高くなります。そのため、監視の必要性がさらに高くなります。SolarWindsのITトレンド レポート2020によると、日本のITプロフェッショナルの55%は、インフラストラクチャーやハードウェアよりもアプリケーションやサービスの管理に多くの時間を費やしています。

 これは、現代のビジネスにおけるアプリケーションの戦略的重要性が高まっていることを表しています。アプリケーションパフォーマンス管理(APM)戦略そのものを削るのではなく、APMソリューションの価格を比較することで、コスト削減を検討することができます。需要の増加に関連するあらゆるものを包括するための、監視戦略とアプローチを拡大しなければ、適切なパフォーマンスを確保することができず、運用コストの最適化を実現できません。

 需要の増大に関連して監視戦略を拡大しない限り、管理や稼働時間の維持に失敗する可能性が高くなり、成功の機会を見逃すことにつながってしまいます。

今日では、誰もが顧客ユーザーとなり得る

 外部ユーザーは、訪問したウェブサイトが正常に機能していない場合、管理者に報告することはせず、そのウェブサイトに訪問しなくなってしまいます。そのため、ウェブサイトの不具合に気が付いた従業員は、即座に対処方法を検討したり、ITプロフェッショナルに問い合せたりすることになります。

 非生産性や満足度の低下、コスト効率の低下を食い止めるには、ハイブリッドインフラストラクチャーおよびAPMツールが重要な役割を果たします。APMソリューションは、アプリケーションやユーザーエクスペリエンス、ビジネストランザクションを行うために必要な全てのインフラストラクチャーのパフォーマンスなど、アプリケーションスタック全体の監視をサポートします。

 元来、APMは特定の「重要な」アプリケーションとインフラストラクチャーにのみ使用されてきました。その背景には、予算と複雑さに対する認識があるとされていました。しかし、簡易的で費用対効果が高く、短時間で価値のあるAPMソリューションが利用できるようになった今日、従来の戦略を見直すべきかもしれません。低コスト時代の中で、簡易性、性能、価格帯が、事業の成功と失敗を左右します。

 アプリケーションとインフラストラクチャーについて、監視を拡大し、強化することは急務になってきています。今日のリモートワークの拡大により、誰もがアプリケーションスタックの顧客ユーザーとなり得るのです。

執筆:河村 浩明(かわむら ひろあき)
ソーラーウインズ・ジャパン 日本担当カントリーマネジャー
東京大学工学部物理学科卒業。IT業界での長年にわたるキャリアの中で、営業やビジネス開発などで管理職を歴任。日製産業(現・日立ハイテク)、EMCジャパン、日本オラクルを経て、サン・マイクロシステムズ、シマンテック、DropBox Japanでは代表取締役社長を務める。2019年5月から現職。

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