PTCジャパンは、8月20日からオンラインイベント「PTC Virtual DX Forum Japan 2020」を開催している。9月25日までの会期中に、デジタルトランスフォーメーション(DX)に関する国内外の事例やソリューションなどに関する約50のセッションと、約20のバーチャル展示ブースを提供している。
PTCジャパン代表取締役兼PTC アジア太平洋地域統括責任者の桑原宏昭氏
イベントについて同社は、「製造業などさまざまな業界のDXを実現する先進テクノロジーやソリューション、革新的なビジネスモデルや事例を紹介する」と位置付ける。IoTやAR(拡張現実)技術、最先端CAD、製品設計ソリューションのほか、パートナー企業のサービスやソリューションなどを紹介する。8月20日には、桑原宏昭代表がオープニング基調講演を行い、「PTCが提供するデジタル変革」をテーマに、ARなどのデジタル技術を活用した具体的事例などを交えてDX支援への取り組みを紹介した。
桑原氏は、「中国の思想に端を発した陰陽のように、デジタルとフィジカルは近そうで遠い関係にある。PTCは、長年に渡りデジタル領域で顧客を支援してきた。今後はフィジカルとデジタルの融合でイノベーションを提供することが重要になり、そこにPTCのミッションがある」とし、「その際の重要なテクノロジーがフィジカルの状態をデジタル領域に持っていくためのIoTと、デジタルデータをAI(人工知能)などで分析し、その結果を製造現場で活用するためAR技術」と切り出した。
また、フィジカルとデジタルの融合では、製品や設備の差別化と遠隔での最適化を行う「Product」、オペレーションの効率性と柔軟性においてブレイクスルーする「Process」、労働力の俊敏性と柔軟性を向上させる「People」、空間や場所の作業効率と現場の最適化を行う「Places」ーーの4つの「P」が大切だとし、PTCは、テクノジーを活用することで、これらの領域から企業のDXを支援することを強調した。
PTCのDX戦略
一方で、米国は今後10年間に労働人口が増加するものの、25~34歳の若手の割合が減少し、スキル不足が理由で採用に至らない求人数が240万件に達すると予測されているという。桑原氏は、「日本では労働人口そのものが減少し、米国同様の事態も予測される。さらに、新型コロナウイルスの影響で社会環境も労働環境も大きく変動している」とし、「最前線の『現場』で働く作業者は全体の75%を占め、在宅勤務ができない。現場の人たちをデジタル技術やデジタルデータを活用して支援する必要がある」と提起した。
大量に収集されるデジタルデータは、そのまま現場に持ち込んでも意味がなく、また、ビッグデータを解析し絞り込んだデータの状態にしただけでも現場での作業効率は上がらない。しかし、ARの技術を用いれば現場作業者が視覚的に判断できるようになり、デジタルが現場を支援できるようになるーーというのがPTCの基本的な姿勢だ。
「作業手順に応じて情報を見せ、作業員の安全確保と法令順守を実現し、現場の状況に応じたシステムの制御や、企業内に散在している重要な情報を目の前で見せることも可能になる。現場へのデジタルデータの融合という点で、ARは重要な役割を果たす」(桑原氏)
AR活用に対する現場の期待も小さくはないという。調査によると、高度なスキルや知識を持ったシニア世代の定年退職に懸念があるとする企業は6割以上に達する一方、シニア世代の定年退職による知識喪失の対策としてAR技術が役に立つと回答した企業は87%にもなる。また、企業はARをあらゆる業務で活用することを想定していることが明らかになったという。
桑原氏は、「労働人口の減少やスキル不足という課題を解決する上で、ARは有効なテクノロジーであるという認識が広がっている」とした。
また、新型コロナウイルスの感染拡大でも、デジタルデータやARの活用が重要な役割を果たしているとする。「まずは緊急対策として遠隔地からのリモートコラボレーションを支援する。ARを使うことで、製造装置を見せながら対応したり、デザインレビューを行ったりできる。第2段階では、現場作業者の多能工化やトレーニングのためにARを活用して、事業継続リスクを緩和する。次の段階では、ニューノーマル時代におけるプロセスの見直しに、デジタルデータやARを活用していく」(桑原氏)