AWS Summit

AWSのCEOが語った、アマゾンが経験した変化への対応術

國谷武史 (編集部)

2020-09-09 14:33

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWS)の年次カンファレンス「AWS Summit Online」が9月30日まで開催されている。ライブ配信された2日目(9月9日)の基調講演にはCEO(最高経営責任者)のAndy Jassy氏が登壇し、コロナ禍への対応やビジネスの成長の裏側にあるエピソードなどを語った。

 まずJassy氏は、コロナ禍へのさまざま対応においてAWSのクラウドインフラがこれを支えているとし、「感染の防止や食料など生活に必要な物資の提供、新型コロナウイルスを解き明かすためのデータ分析といったもの、医療従事者や政府機関の活動を支えるリソース、在宅勤務やウェブ会議のための機能、オンライン学習、さらにはゲームや映画などのエンタテインメントのサービスにもAWSが利用されている」と紹介した。

Amazon Web Services CEOのAndy Jassy氏
Amazon Web Services CEOのAndy Jassy氏

 AWSの多くの従業員も在宅勤務に移行しているが、データセンターなどの現場で業務に当たる従業員もいるため、同社では安全を確保するために150以上のポリシーを変更し、現場消毒などの清掃頻度も3倍に増やしたり従業員の感染検査費用を補助したりしているという。休業補償などの各種申請ためのオンライン環境を構築したり、多額の寄付なども行ったりしているとJassy氏は言う。

 「AmazonとしてもBezos氏(Amazon CEOのJeff Bezos氏)も個人や地域社会を支援するために個人的に1億ドルを寄付し、17万5000人を新規雇用したほか、シアトルでは公立学校に通う生徒がオンライン授業を受けられるように4000台のPCを提供した」

 現在のコロナ禍は、世界中の社会、組織、個人に多くの変化をもたらし、その変化への対応を強いている。Jassy氏は、クラウドコンピューティングを絡めて変化への対応について言及、従来のオンプレミスから新しいクラウドへの移行という変化への対応には多くの課題を伴うとした。

 「苦労して構築した既にあるITインフラをなぜクラウドにしなければならないのかという根本的な疑問を抱く人々がいる。クラウドへ対応するため新しいスキルを獲得しなければならないし、クラウド化よりも既存のデータセンターの更新といったほかにしなければならないこともあるだろう」

 現在のAmazonは、伝統的な小売ビジネスをEC(電子商取引)で大きく変えた存在したと捉えられることが多い。しかしJassy氏は、「創業時のAmazonも伝統的なビジネスモデルであり、オンラインにはeBayなどが既に存在した。そのような状況で新しいビジネスを打ち出したのは、ひとえに『顧客体験』へ重きを置いたからだ」と話す。従来のモデルや考え方にとらわれた状況をJassy氏は「重力に逆らえない」と表現し、「クラウドへの移行に価値を見いだす人々にとって、先のさまざまな課題あるいは既存システムを並行して運用しなければならないことの非効率性が“重力”となる」と提起した

 AmazonがECで成功した背景には、顧客体験を最重要視したアプローチとともに、“薄利多売”でも顧客の利益に還元可能なビジネスモデルを構築し得たことがあると、Jassy氏は語る。

 「EC2のようなサービスのインフラは非常に巨大な投資や手間を伴い、薄利多売のビジネスの中でコストを節約しイノベーションを起こし続けないといけない。AWSがこれをできるのはAmazonが経験して獲得したノウハウがあるからと言える。これを実践するのは大変だが、多くの制約下で優れたパフォーマンスを発揮できることがAWSの強みになっている」

 コロナ禍は世界に変化への対応を突きつけると同時に、その対応にスピードも必要とすることも突き付けた。Jassy氏は、実際に大企業から巨大で複雑な組織構造であるが故にスピードを発揮できないとの声を聞いていると紹介し、スピードを持って対応する術として次のようにアドバイスした。

 「Amazonで実践している方法の一つが『ビルダー』を雇用するものだ。ビルダーは、顧客の声を聞き顧客体験について考えることができ、顧客のために必要な仕組みの全体を考えることが求められる。単に仕組みを作るのではなく、そうした視点で仕組みを作る必要があり、立ち上げが肝心になる」

 「次にチームを作ることが重要になる。初期のAmazonでは、何か問題が起きれば、エンジニアや品質管理、運用といったさまざまなグループがお互いを非難したり対立したりすることがあった。それではいけない。チームとして協力し共有し合える存在にならないといけない」

 「そして、『ビルディングブロック』を活用していく。Amazonが10年で成長を遂げることができたのは、AWSの(さまざまなの機能を組み合わせいく)ビルディングブロックのアプローチを活用したからだとも言える」

 「最後は意思決定の在り方だ。物事には間違ってもやり直せることと、できないことがある。できないことは慎重に判断しなければならないが、そのような一方通行の物事はわずかしかなく、多くの物事は立ち戻り修正することができる。間違えを理解し失敗から学び修正すれば良い。それを素早く行う。これは誰にでもできることだ」

 最後にJassy氏は、コロナ禍が今後の世界にもたらす変化を“前向き”に捉えて対応していきたいとした。

 「大きな変化の1つがビデオ会議だ。以前は皆が1つの場所で協働することが常識だったが、今では小さい画面に皆が集まり、映像や音声を通じて一緒の目標に向けて協働している。仕事のやり方が変わったのだ。そして、頻繁に会えなかった遠隔にいる人々ともオンラインで頻繁に会えるようになった。仕事だけでなく一緒に食事をしたり、10人同時に会話を楽しんだりできる。私自身も家族と一緒に過ごせる時間が増え、散歩でじっくりと物事を深く考えることができ、新しい挑戦もできる。コロナ禍後もこのようなことを続けたい」

セッションは、セールスおよびマーケティング担当バイスプレジデントのMatt Garman氏(左)がJassy氏にインタビューする流れで進められた
セッションは、セールスおよびマーケティング担当バイスプレジデントのMatt Garman氏(左)がJassy氏にインタビューする流れで進められた

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