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ひとり情シス覆面座談会

第20回:ひとり情シスとIT投資の承認について

清水博

2020-10-22 07:00

 以前実施したひとり情シス覆面座談会の蔵出し企画。4回にわたってひとり情シスの経験談を紹介しています。今回はひとり情シスとIT投資の承認について議論します。今、情報を必要としているひとり情シスの方のお役に少しでも立てれば幸いです。

座談会に参加したひとり情シスのプロフィール
  • スーパーネオ主任:ITリテラシーが極めて高く、社長に進言できる近い存在で、全社の経営戦略にも意見を求められる参謀格。スーパー(超越)でネオ(新しい)なひとり情シス
  • 旧情シス係長:段階的に情報システム部門の規模が縮小して、最終的に現在の人員の一人になった。元々は、COBOLのプログラマー
  • 初めて情シス君:ひとり情シスで運営していた担当者の定年退職を受けて、後任者となった。2年間にわたる引き継ぎ期間の最中
  • スタック先輩:約20年にわたって派遣型常駐エンジニアを続け、その後、中堅企業の情報システム部門のひとり情シスに転身。フルスタックエンジニアとして現場の第一線で働き続けることが信条
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清水:IT予算の申請や予算執行の承認などで、従来と変化していることはありますか?

スーパー主任:弊社では社長が全て予算の枠組みを決定しています。一見、計画性がないようにも見えますが、やはりそこは経営者の感覚で機を見るに敏という感じです。今後の会社の成長戦略を考えて、疾走感のある意思決定をしているように思えます。

清水:確かに、年度ごとに定期の予算を確保する従来のスタイルから、必要なときにトップがその都度判断していくスタイルに変化していることが、われわれの調査結果にも出ています。

スタック先輩:弊社では予算の申請が通りやすいです。社長からすぐそばの席に座っていることもあり、日常的に近い距離でコミュニケーションが取れていると感じています。年齢が若く、ITリテラシーが高い社長なので、素早くこちらの意図をくんでもらえることも幸いしています。

清水:実際に、優秀なひとり情シスの方が社長の席の近くに座っているケースは多いようです。社長からの信頼が厚く、参謀の役割を担っていることや日頃から進言していることが読み取れます。

スタック先輩:名刺管理システムの導入を検討する際にエンドユーザー部門からの徹底的な抵抗に遭った結果、失敗に終わってしまったことが過去にあります。原因は、ITの問題というよりも、もっと根源的な問題でした。営業の努力の結果である顧客情報を共有することに対する嫌悪感が、抵抗勢力の動機だったのです。

 そこで、CRM(顧客関係管理)を導入する際には社長自ら統括指示を行い、マネジメント層が一丸となってエンドユーザー部門に説得を試みました。その結果、抵抗勢力からの理解を得て導入することができました。「その苦労は必ず報われます」ということを教訓にして全社に啓発しています。予算を部門経費にすることで、投資の承認に関する意思決定の方向性や手段が根本的に変わってきます。

旧情シス係長:弊社は極限までコストを削減している状況です。ベンダーさんの協力のおかげもあり、全体のコストを管理できていると考えています。しかし、システムの大規模化に伴ってランニングコストが肥大しています。

 加えて、最近ではハードウェアの修理も増えてきているため、総費用がかさんでいます。コスト低減のために以前から大規模システムをダウンサイジングしてはいるものの、上層部はさらなるコスト削減が可能だと考えているようです。

 この座談会で、目覚ましい成長をされている企業からの参加者のお話を伺い、新しいテクノロジーを導入できることに羨望(せんぼう)のまなざしを向けてしまいます。

スーパー主任:社長のコンセンサスを得ることができれば申請が通るので、弊社も予算は獲得しやすいです。積極戦略を取る方針の社長なので、反対に私には抑止力としての役割や責任があると考えています。

 「まずプロトタイプで確認し、フェーズアップしていく」ことで、切り込む視点を誤らないように注意しながら、緩急ある戦略で社長に進言するようにしています。エンドユーザーとの関係も良好です。ただ、今後も組織が成長を続けて大きくなっていったときに、現在のあうんの呼吸のような承認プロセスを継続できるかが課題であると感じています。

初めて情シス君:弊社の場合、私の前任者が長期にわたって予算をしっかり管理されていたため、経営層からの信頼が厚く、予算組みは前例を踏襲した形式で引き続き行われています。年に一度、予算策定の時期になると前例にのっとった草案を提出し、承認されると年間を通じてその予算を使うという枠組みです。

 そのため、同じ金額を安定して獲得できます。しかし、新しい技術やシステムに移行するなど、一定期間に投資を集中する必要がある場面には不向きで、集中的な投資の実行は難しいです。しかしながら、計画的で安定した予算を獲得できることは、やはり前任者の尽力の恩恵だと感じています。

スーパー主任:弊社でも、新規の実験的な試みの場合は必ずしも投資が認められるとは限りません。そこで、社長に納得してもらうために戦略的な工夫をしています。それは、別の取締役を説得して、多方面から社長に伝えることです。コストの投資対効果を分かってもらえればITの効果が顕著な管理部門は理解を得やすいため、他部門を味方に付けることで、社内のさまざまなルートを通して社長への説得を試みています。

 実際に意思決定の観点から見ても、私だけの意見では判断に偏りが出る可能性があります。しかし、他者の視点も加わることでダブルチェックが可能になり、より良い投資判断ができるようになるのです。そのため、積極的に他の取締役のコンセンサスも取るようにしています。

清水:実際のお話から予算の承認に関する知見を深めることができました。ところで、ITの経費について、自分の認知しないところで保守契約費を支払っていたなどの話を耳にすることがあります。皆さんはIT経費をどれほど把握されているのでしょうか?

旧情シス係長:ひとり情シスの場合、リソース配分の都合から保守業務が主体となるため、突発的な新規の要望に迅速に対応することが難しいです。知らぬ間にユーザー部門がレンタルサーバーなどを契約していることもありました。

 サーバーの普及に関して、IT部門から働きかけたときには広まらなかったのに、ユーザー部門の任意の人物などを端緒とした場合は、IT部門が認知できないにもかかわらず瞬く間に広がっていくということがあります。

 結果として、情報システム部門が関与していない経費がどんどん増えてしまいました。そのため、身に覚えのない経費について、経理部門からIT部門が責任追及されるということが頻発しています。

初めて情シス君:ユーザー部門から共有ドライブの容量を必要に応じて増強したいという要求が来ることがあります。しかし予算の都合上、容易に実現できないとなると、各部門が単独の判断でストレージを導入してしまうことが頻発しています。こうした部門採用のストレージがトラブルの温床となってしまうこともありました。バックアップ体制が十分考慮されていないことなどもあり、復旧にかかる手間やロスは相当なもので、こうした突発的な仕事が日常業務の妨げにもなってしまいます。

 コスト面から見れば、部門がローコストで導入すること自体は悪くないのです。しかし、その際にきちんと用途を見定めるべきだと感じています。リスクの観点から言えば、障害が発生したときの復旧の手間や金額といった話だけでは済みません。データ管理やセキュリティの観点からビジネスを失う可能性もあるので、やはり情報システム部門と連携したある程度しっかりとした管理体制が必要だとも感じ、苦慮しています。

清水:さまざまな苦労がうかがえるお話でしたね。一方で予算の比率で考えれば、2人以上の場合と比べ、ひとり情シスは予算が多いというデータもあります。これは、経営陣もひとり情シスの辛労に理解があるという見方もできます。

清水博
清水博(しみず・ひろし)
ひとり情シス・ワーキンググループ 座長
早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わり、米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のディレクターを歴任、ビジネスPC事業本部長。2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。2020年独立。『ひとり情シス』(東洋経済新報社)の著書のほか、ひとり情シス、デジタルトランスフォーメーション関連記事の連載多数。

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