部門間の連携がうまくいかないと、自分の仕事が顧客にどう影響するのか実感しにくくなるというデメリットもあります。例えば部門間で共通データを活用している場合はどうでしょうか。マーケティング部門で作成したコンテンツで集客し、リードを獲得した見込客がいるとします。その後インサイドセールスがフォローし案件化した、訪問営業を経て契約を結んだ、さらに翌年も契約継続したということが、マーケティング部門でもデータからわかれば、自分たちの活動が有効だったことを実感できるでしょう。
こうした環境があれば、コロナ禍であってもオンライン会議、チャット、SNSなど必要なツールを活用して、マーケティング、営業、サポートが連携して顧客をフォローできます。
なお、コロナ禍ではスタートアップに限らず、インサイドセールスの人員を増やす、立ち上げるなど、インサイドセールスが注目されたのも特徴です。Googleトレンドのデータを見ても3月以降、インサイドセールスの検索ボリュームが約2倍に増加しました。

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インサイドセールスが注目された理由の一つとして、コロナ禍の急激な変化において顧客の声を丁寧に聞く必要があったことが挙げられます。どの業界、どの企業がどれくらいの影響を受けているのか、今何を必要としているのか、既存のデータだけでは判断できないため、個別のヒアリングが必要でした。
PMFのためのCRM
スタートアップが注力すべきことは、「プロダクトマーケットフィット(Product/Market Fit:PMF)」です。PMFとは自社の製品やサービスが市場のニーズにあっているか、試しながら調整する作業のことで、テストと調整を高速に繰り返していかなければ、市場に受け入れられません。顧客の変化を製品に即座に反映できるかは、企業成長の大きなカギになります。それゆえ、CRMを使った顧客管理、インサイドセールスが必要なのです。
インサイドセールスでは、電話だけでなく、メール、チャット、オンライン会議、SNSなど様々なチャネルを活用して、コミュニケーションを行います。顧客にとっての最適なチャネルを選定し、どのチャネルでも統一したデータをもとにコミュニケーションできるようにしておけば、顧客の声をスムーズに社内へフィードバックすることができます。
インサイドセールスで得たフィードバックを製品に反映する、反映した製品を顧客に返すといった反復を行うためにも、CRMで顧客データをしっかりおさえておく必要があります。
人とツールの費用
一方で、事業開始当初は顧客も見込客も少ないので、CRMもMAもまだ不要だと判断する企業もあります。実はこの状態を続けると、見込客が増えていくと人件費のほうがツールよりも高くなってしまうことがあります。
海外でのインターンシップ情報を提供しているタイガーモブ(荒川区)は、創業者と社員1人、インターン2人で事業を運営していましたが、問い合わせ管理、見込客管理のために、早々にCRM、MAを導入しました。
1人採用した場合、会社の費用負担としてはおよそ毎年700万円かかりますが、システムを使えば3分の1程度の費用で済みます。人材採用の場合は、その後定着するか、再現性のあるノウハウを共有できるかなど、採用後もさまざまな不安がつきまといます。その点、システムであればデータを蓄積できますし、再現性の高いコミュニケーションの分析も可能です。
PMFが、市場定着において重要な戦略となるスタートアップにおいて、CRM、MAの導入が早すぎるということはありません。少数精鋭で素早い成長を実現させるためにはファクト(データ)に基づく企業運営は欠かせない物になっています。
次回はスタートアップにおける組織づくりについて取り上げます。
(第6回は12月下旬にて掲載予定)

- 鈴木 淳一(すずき じゅんいち)
- セールスフォース・ドットコム
- 執行役員 セールス・ディベロップメント本部 本部長
- 広告系ベンチャー企業の営業マネージャーを経て、2010 年インサイドセールス・レプレゼンタティブ としてセールスフォース・ドットコムに入社。 コマーシャル営業本部部門にて外勤営業を経験した後、2017年8月にインサイドセールス部門Sales Development Representative(SDR)事業部 事業部長に就任。 2019年2月からはスタートアップ戦略部 事業部長も兼任。 2020年2月、インサイドセールス部門全体の執行役員 本部長に就任。スタートアップ/中堅中小およびエンタープライズ部門を統括。現在に至る。 現在はインサイドセールス、The Model、SaaSのノウハウ提供にも注力している。