2021年の技術予測となると、AI(人工知能)/機械学習、ハイブリッドクラウドなどは安易に想像できる。9つの分野で予測を立てているDell Technologiesは1月8日、アジアの記者向けにオンライン発表会を開催、最高技術責任者(CTO)のJohn Roese氏は「AIと比べると話題になっていないもの」として、5G(第5世代移動体通信)、エッジ、半導体、量子コンピューターの4分野を取り上げた。
Dell Technologiesでは、AI/機械学習、ハイブリッドクラウド、セキュリティ、データ管理、インテリジェントPC、5G、エッジ、量子コンピューター、シリコン(半導体)の9つの分野で、2021年の技術予測を行っている。このうちRoese氏が会見で取り上げたのは、5G、エッジ、半導体、量子コンピューターだ。以下に、Roese氏の話をまとめる。
Dell Technologiesでは9つの分野で技術予測をしている
5G
日本でも商用サービスが始まったが、これら“第一波”の5Gは、「本物ではない」とRoese氏。2021年に標準化団体の3GPPが公開するRelease 16(R16)とRelease 17(R17)により、“本物”のスタンダロン5Gが登場すると続ける。R16、R17では、mMTC(massive Machine Type Communication)などさまざまな機能が盛り込まれるが、これらによりエンタープライズのユースケースが実現すると見る。
「スマートシティー、スマートファクトリーなどの実現に必要な技術が2021年に入ってくる。物流、病院、輸送などが大きく変革していくことになる」とRoese氏。そこで重要になるのが、5Gの土台アーキテクチャーだ。
「これまでのテレコアーキテクチャーから、クラウドとITを活用したオープンで構成要素に分かれたソフトウェア定義型のアーキテクチャーが初めて通信業界に入るだろう」(Roese氏)。もちろん、DellはVMwareなどとともに、この市場に参入済みだ。
さらにRoese氏は、「2021年はこれまで以上に多くのプレイヤーが5Gエコシステムに入り、面白くなるだろう。2020年の5Gよりも、あるべき姿に近づくはずだ」と述べた。
エッジ
「2020年はMicrosoft、Amazon、Googleなどそれぞれがエッジを構築した。しかし、2021年はそのエッジが”問題”になるだろう」とRoese氏は述べる。現時点ではAzure Arc、Google Anthos、AWS Outpostsを実装する場合、それぞれのシステム、インフラ、エッジが必要だが、この状態が続くとサイロ化されたエッジが乱立することになるーーと警告する。
そこでDellの予測としてRoese氏は、「エッジプラットフォーム」と「エッジワークロード」の2つを挙げた。
エッジプラットフォームは、エッジが使うコンピュート、ストレージ、ネットワーキングなど物理的やキャパシティーのプールで、その上で動くソフトウェアファンクションが、エッジワークロードとなる。「顧客は1種類あるいは複数だが限定されたエッジプラットフォームを構築し、その上で多数のエッジワークロードやエッジ体験が動くだろう」とRoese氏。
予測としては、エッジプラットフォームへのシフトが2021年から22年に始まり、エッジの乱立問題が解決の方向に向かう。さらには、エッジの管理がしやすくなり、コスト面でもメリットが得られると見る。
エッジではもう1つ、エッジのエコシステムがクラウドサービスの拡張として提供されることで、例えば、工場の中にエッジを実装する必要がなくなる。Dellは、ここでデータセンターのSwitch、FedExと協業し、FedExの事業拠点にエッジデータセンターを構築している。「アズ・ア・サービスとして提供されるが、低遅延などの要件を満たすため、顧客は自社でアーキテクトやハードウェアの再実装などの作業をすることなく、迅速にエッジを実装できる」(Roese氏)という。
半導体
「ホモジニアスコンピューティングからヘトロジニアスコンピューティングへ変わる」というのがここでのRoese氏の予想だ。
背景にはムーアの法則の終わりがあり、「スケールするための唯一の方法は、ドメインスペシフィックプロセッサーの混載」とRoese氏は言う。そして、IntelによるHabana Labs(AIプロセッサー)やAltera(FGPA)の買収、NvidiaによるMellanox(ネットワーキング、アクセラレーター)やARMの買収、AMDによるXilinx(FGPA)の買収などを挙げ、「既にその方向に向かっている兆候」とした。
半導体業界の変化はソフトウェアにも影響を与え、「FaaS(Function as a Service)やアクセラレーターの仮想化などの異なるソフトウェアフレームワークが必要になる」という。また、新しいインテグレーションプラットフォームも必要になるとした。ここでDellは、高密度なアクセラレーションサーバーとして「Dell EMC DSS8440」や「940XA」を2年前に投入済み。「x86だけでなく、DPU、FGPA、ドメインスペシフィックアーキテクチャーをアグリゲートするよう設計されている」とRoese氏は説明した。
量子コンピューター
これまでの3つの技術とは異なり、「2021年にインパクトはないが重要」(Roese氏)というのが量子コンピューターだ。
「量子コンピューターは既に現実のものになった。しかし、企業が使うことのできる技術になるにはまだ時間がかかる」とRoese氏。2021年の予測として、「ソフトウェア開発エコシステムが量子コンピューターを試すだろう」と述べた。MicrosoftのQ#など量子コンピューター向けの言語やSDK(開発キット)が登場しており、パブリッククラウド、政府や公共機関のラボを通じてアクセスできるようになったことを受けてのものだ。
一方で、量子コンピューターは崩壊的な技術だが、「伝統的なコンピューター市場を崩壊するものではない」とも述べた。両者は共存し、補完の関係になるだろうというのがDellの予測だ。
Dell Technologies 最高技術責任者のJohn Roese氏