経営にデータを活用することは、昨今流行のデジタルトランスフォーメーション(DX)でも必須の取り組みだ。が、もっと前から「データ経営」に取り組み、業態変革を遂げて業績を伸ばしている元気な会社がある。ワークマンだ。メディアでも最近話題だが、筆者も話を聞く機会があり、大いに共感したので、本連載で取り上げたい。
現場でデータを駆使して自ら考えるクセをつけることが大事
個人向け作業服の老舗であるワークマンはここ数年、機能性ウェアへと市場を広げ、アウトドアの客層拡大に成功。その業態変革に向けて「データ経営」をはじめとしたユニークな取り組みが注目を集めている。
写真1:ワークマン 専務取締役の土屋哲雄氏(「PERSOL CONFERENCE ONLINE 2021」の講演より)
メディアでも話題に上りつつある中、筆者は先頃、パーソルグループが主催する「PERSOL CONFERENCE ONLINE 2021」において、同社で変革の推進役を担ってきた専務取締役の土屋哲雄氏によるオンライン講演を視聴した。実は、勉強のつもりだったが、話の内容に共感を覚え、中でもデータ経営にまつわる「一言」が非常に印象深かったので、ここで紹介しておきたい(写真1)。
まずは、その一言の前提となる変革の概要を、土屋氏の話を基に記しておこう。同社は2014年、個人向け作業服の事業だけでは成長が頭打ちになると予見し、客層の拡大に向けて業態変革に乗り出した。
図1が、その変革における経営目標と達成手段である。この図の見方としては、個人向け作業服による「第1のブルーオーシャン市場」から「客層拡大」を図って、機能性ウェアに事業ドメインを変えて「第2のブルーオーシャン市場」に移行するというのが、経営目標である。そして、そのために左側の「しない経営」と右側の「データ経営」を推進することが、達成手段である。
図1:ワークマンの変革における経営目標と達成手段(「PERSOL CONFERENCE ONLINE 2021」のワークマン土屋氏の講演より)
データ経営に着目すると、その基本にあるのは「不確実時代には現場に情報がある」という考え方で、その情報を生かすために「データに基づき現場で全社員が考えて改革する」形をとる。つまり、変革の起点は現場にあるとの考えから、現場で発生したデータを現場の社員がExcelを使って自ら仮説を立てて分析し、検証して適切な解を引き出すように努めるというものだ。ちなみに、同社における現場というのは、全国で900超を数える店舗のことである。
ここで筆者がハッとした土屋氏の一言は、「こうやってデータを使って自ら仮説、分析、検証することで現場で考えるクセをつける」と。同氏は「エッジコンピューティングの発想と同じ。現場で素早くデータ処理できるようにすることで、問題解決やさまざまな判断のスピードと的確さが高まる」とも述べた。