ビジネスとテクノロジーのコンポーザビリティー

小売企業のケースで見るコンポーザビリティーの本質

原水真一 (サイトコア)

2021-12-15 06:00

 これまでの連載記事で、コンポーザビリティーに関する概要をはじめ、デジタルトランスフォーメーション(DX)領域におけるコンポーザビリティーはどのような要素により構成されているのか、そして、コンポーザブルビジネスを実現しつつある企業の実例をわれわれの経験から明らかにしてきた。

 最終回の本稿では、ビジネスのコンポーザビリティーを向上させていく一例を取り上げるとともに、これまでの内容を総括する。

重厚なシステムの弊害に悩むA社の決断

 ここでは架空の小売業者A社の事例を使って説明する。近年、テクノロジー活用が急速に進みつつある小売業を営むA社は、大都市圏を中心に全国でデパートを展開しており、食品から衣類、家電製品に至るまで多種多様な商品を販売している。同社は、オンラインストアにも力を入れており、オンラインでの収益がオフラインでの収益に比肩するまでに成長している。

 しかし、オンラインストアの収益が成長するにつれ、下記にあるような幾つかの課題が浮き彫りになった。

  • システム上の不具合や利便性の欠如が頻繁に指摘されるようになり、顧客満足度の低下を招いている
  • オンラインストアの運営に関連する業務が複雑化しつつあるにもかかわらず、細かなシステムアップデートができておらず、業務の遂行にも支障が出始めている
  • オンラインストアという特性上、A社には画像データを中心とする膨大なデジタルアセットが蓄積されているはずだが、明確な管理体制が構築されていないため、過去に用いた画像や動画データなどのアセットを探し出すことが困難な状況にある

 このような現状を打破し、オンラインストアでの収益性を高めるために、A社はオフラインを中心に構築したこれまでのシステムから、コンポーザブルアーキテクチャーを採用した柔軟性の高いシステムへの移行を決断した。そして、オンラインストアの運営に関わる周辺システムも整理しようと考えている。

リスクを減らし、成功体験につなげる

 さて、本題はここからとなる。A社のシステムには複数の課題があるため、どこから手をつけていくかが重要となる。

 A社の場合、オンラインストアの基盤となっているシステムと、運営に関する業務の遂行に必要な周辺システムが存在しており、大規模な改修の足掛かりには、リスクの少ない周辺システムが向いているといえよう。

 今回のケースでは、デジタルアセットの管理体制ができていないということが分かっているため、デジタルアセット管理システム(DAM)を導入するところから始めるのが妥当とされた。前回の記事でも触れたが、DAMは写真やイラストなどの画像データや動画、音声データなどのデジタルアセットを一元管理し、用途に応じた変換の実行が可能なシステムを指している。

 A社では、Sitecoreが提供する「Content Hub」というDAMを採用した。これまでファイル名や最終更新日という限られた情報から見つけ出していたデジタルアセットに、カテゴリーやタグ情報を付与するルールを設け、デジタルアセットの整理を開始した。

 その結果、これまでは情報更新の度に発生していた検索にかかる人的コストが削減された。その上、マーケティングキャンペーンにデジタルアセットを活用し始め、収益拡大に向けた新たな取り組みを開始することにもつながった。

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