政府が先頃閣議決定した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(以下、デジタル重点計画)では、「誰一人取り残されないデジタル社会の実現」を前面に打ち出している。その具体策として挙げている「デジタル推進委員」なる存在に注目したい。
1万人以上の「デジタル推進委員」を全国津々浦々に展開
写真1:内外情勢調査会の講演で話す岸田文雄首相(政府インターネットTVより)
「政府が成長戦略の柱の1つとして掲げているデジタル化を進めるに当たっては、誰一人取り残されず、全ての人がデジタル化のメリットを享受できることが大切だ。高齢者をはじめ、デジタルに不慣れな方をサポートするため、1万人以上の『デジタル推進委員』を全国津々浦々に展開する」(写真1)
岸田文雄首相は2021年12月23日、東京都内で開かれた内外情勢調査会の講演でこう明言した。その方針は翌24日に閣議決定されたデジタル重点計画に明記されている。その後の報道で、「デジタル推進委員」の存在はあまり話題に上っていないようだが、筆者はこの取り組みこそが誰一人残されないデジタル社会の実現の“肝”になるのではないかという印象を強く抱いた。果たして、デジタル推進委員の展開は奏功するか。
デジタル重点計画の内容についてはデジタル庁の公開資料をご覧いただくとして、ここではその概要を1ページにまとめたものを表1に示しておく。同庁によると、この計画は「目指すべきデジタル社会の実現に向けて、政府が迅速かつ重点的に実施すべき施策を明記し、各府省庁が構造改革や個別の施策に取り組み、それを世界に発信・提言する際の羅針盤となるもの」と位置付けている。
表1:「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の概要(出典:デジタル庁)
表1の中でデジタル推進委員の話はどこにあてはまるかというと、左側の「実現のための6つの方針」の1つで、中央の「実現に向けての理念・原則」の最初にも記されている「誰一人取り残されないデジタル社会の実現」の具体策の1つとして記されている。以下に、その内容を抜粋しておこう。
誰一人取り残されないデジタル社会の目指す姿は、「個々人の多種多様な環境やニーズなどを踏まえて、利用者目線できめ細かく対応していくことにより、誰もが、いつでも、どこでも、デジタル化の恩恵を享受できるようにする」ことにある。
「誰一人取り残されない」デジタル化を進めていく上では、デジタル機器・サービスの操作性のみならず、これらの機器・サービスを通じて個々の利用者の利便性の向上や課題の解決をいかに図っていくか、常に利用者視点で、各々の社会環境や日常生活、ライフステージなどを具体的にイメージしつつ、きめ細かく対応していくことが重要である。
このため、デジタル機器・サービスに慣れていない人のみならず、自らはこれらを利用しない人も含め、デジタル化により実現される迅速かつ円滑な行政サービスの提供をはじめ、デジタル化の恩恵をあらゆる人が享受できる環境を整備することが必要だ。