Meta(旧Facebook)をはじめ、MicrosoftやThe Walt Disney Company、字節跳動(バイトダンス)など、世界中の企業が本格参入に乗り出す「メタバース」。前回はビジネスの視点からメタバースについて解説しましたが、第3回では私たち個人の生活に焦点を当ててみましょう。オンライン上の仮想空間が広がることで日常にどのような変革が起こり得るのか、またその変革を起こすために開発現場ではどういったことが模索されているのかを解説します。
メタバースは「現実の上位互換」
「オンライン上の仮想空間」というメタバースの定義だけを見ると、「しょせん、現実世界の焼き直しなのではないか」「これまでのインターネット空間とさほど変わらないのではないか」と思うかもしれません。
しかし実際には、メタバースはいわば「現実の上位互換」として、デジタルの良さも引き継ぎながら私たちの生活を変えていきます。
ウェブ2.0に基づく従来のインターネット空間は、大手サーチエンジンによるユーザーの検索アルゴリズムやクッキー、広告、レビューなどによって知らず知らずのうちに誘導された検索結果が表示される仕組みになっています。その結果、ユーザーにとって検索された結果は情報の信用度が低いものとなり、提供側にとっても届けたい情報や商品サービスなど、ユーザーへの新規アプローチの障壁になっています。
しかし、ウェブ3.0の技術も活用される新しいメタバースの世界では、情報の信頼性やアプローチ面の課題を解決し、「リアルの良さ」が回帰すると考えられます。ユーザー側にとっては単に「モノ」の検出にとどまらず、現実世界では当たり前の「偶然の発見」が可能となります。提供側にとっては、商品を手に取ったり店員と会話したりしながら検討を重ねるといった「コト」の体験を同時にユーザーに提供することによって情報の信用性を高め、本来の「モノ」の良さを伝えることが可能になります。それは、平等な機会の創出ともいえるでしょう。
もちろん、従来のインターネットが持つ「物理的・言語的な制約からの解放」というメリットは、メタバースにも引き継がれます。つまりメタバースは、リアルな世界と従来のインターネット空間の「いいとこ取り」ができる空間なのです。
ショッピング:かつての楽しみの回帰、新しい楽しみの創造
現実の上位互換たるメタバースは、私たちの毎日をどのように変えていくのでしょうか。多くの人の生活に関わる行為として、まずは買い物を取り上げてみましょう。
1.距離を超えて「偶然の出会い」を取り戻す
インターネットが今のように普及する前、自分の欲しいものを探して買おうと思うと、基本的に人は街を歩くしかありませんでした。近くの店で取り扱っているものしか買えないのが普通でしたが、商品との「偶然の出会い」がありました。知らなかった商品が店頭に並んでいたり、接客中に意外なものを勧めてもらったりして、予想を超える良品を手に入れられることも珍しくなかったのです。
その後インターネットが普及すると、自分の欲しいものをまずはインターネットで検索する人が増えました。表示された商品のスペックや価格を見比べて、最も合理的なものを合理的な手段で購入するようになりました。遠くの店で売っているものも容易に買えるようになりましたが、かつてのような「偶然の出会い」を得られる機会は減りました。
このように、現実でのショッピングとインターネットショッピングには一長一短があります。それを「いいとこ取り」するのがメタバースでのショッピングです。
まず、メタバースでは現実世界のように「実店舗」が並びます。ユーザーは店の中を歩き回り、気になる商品を手に取りながら、気に入るものを選んでいけます。当然、自分の知らなかった品物に出会えることもあるでしょう。例えば本を買うときも、人工知能(AI)のレコメンドエンジンに依存せず、自分の足で書棚を巡りながら、世界中の本を探すことができます。
そしてメタバースの世界では、「ウィンドウショッピング」の楽しみも広がります。現実世界では距離的な制限で出会えなかったものとも、メタバースなら出会えるからです。物理的なハードルを超えて、なおかつ検索エンジンでは埋もれてしまう良品を見つけられるという喜びがあります。