ひとり情シス企業をなくすためには?
今回の調査では、3万9500社がひとり情シス体制であると判明しました。これらの企業に最低1人増員しようとすると3万9500人が必要になります。ゼロ情シスの場合は18万2500社なので、専任の情シス担当者を2人ずつ確保するとすれば35万5000人が必要になります。つまり、ひとり情シス企業をなくすためには、39万4500人も必要になるわけです。
経済産業省が2018年に発表した「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」は、これから起きるIT分野の人材不足について大きな衝撃をもたらしました。またタイミングを同じくして、「IT人材需給に関する調査」も同省から発表されています。
「IT人材需給に関する調査」では、ITエンジニアが65歳で定年退職すると仮定して、労働人口の減少、新卒・中途採用などの入職者数などを試算しています。またIT化の需要の伸びを低中高の3パターンに分け、それぞれの条件でIT人材の需要を試算しています。例えば、IT化需要の伸びが中位で生産性上昇率が0.7%のシナリオの場合、2025年には147万4000人のIT人材が必要とされ、そのうち36万4000人が不足するとされています。
「IT人材需給に関する調査」に中堅中小企業の記述はありません。企業規模を超えた全体論としての人材ギャップについて警鐘を鳴らしている調査報告なので当然のことと思います。中堅中小企業の情シス人員の増加も多少は考慮されているとは思いますが、主となる部分は大手企業を想定していると思われ、ここで試算されたIT人材の需要にひとり情シス企業を脱するための人員数は含まれていないものと想定されます。つまり、ひとり情シス企業をなくすためには、「IT人材需給に関する調査」で示された人材の不足数(36万4000人)に加えて、ほぼ同数の39万4500人が必要ということです。
現在、IT業界で働くエンジニアが中堅中小企業の情シスとして転職してくれるのが理想的ですが、現状の予測では2025年時点で人材供給数は111万人ですので、このパイを奪い合うことになるのかもしれません。
- 清水博(しみず・ひろし)
- 一般社団法人 ひとり情シス協会
- 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わり、米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のディレクターを歴任、ビジネスPC事業本部長。2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。2020年定年退職後、会社代表、社団法人代表理事、企業顧問、大学・ビジネススクールでの講師などに従事。「ひとり情シス」(東洋経済新報社)、「ひとり情シス列伝」(ひとり情シス協会出版)の著書のほか、ひとり情シス、デジタルトランスフォーメーション関連記事の連載多数。産学連携として、近畿大学CIO養成講座、関西学院大学ミニMBAコース、大阪府工業協会ひとり情シス大学1日コースを主宰。