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「ひとり情シス」の本当のところ

第55回:ひとり情シスから「ゆとり情シス」のすすめ

清水博 (ひとり情シス協会)

2022-10-13 07:00

パワハラ防止法への対応

 2022年4月から中小企業でも「労働施策総合推進法」(通称:パワハラ防止法)が適用されるようになりました。ちなみに、大企業は2020年6月からパワハラ防止策を講じることが義務付けられています。同法が制定されたのは2018年(法改正は2020年)でしたので、本来ならば十分な準備期間がありましたが、新型コロナウイルス感染症による混乱もあり、気がついたら法律が施行されていたということはありませんか?

 パワハラ防止法の順守義務と業務上の指導との線引きは難しいようです。厚生労働省が発行する「職場におけるハラスメント関係方針」の中で、パワハラの定義として「客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」と明記されています。しかし、育成や指導を主たる業務にする管理職からは困惑しているという声を聞きます。

ひとり情シスも定時退社

 ひとり情シスや少数情シスも対応に苦慮しています。システムの導入や切り替え、大量のPCの配布準備などのため、夜遅くまで残業したり、休日に出社したりすることは情シスではよくあることです。また、システムトラブルを解決するため、夜間や休日に出社することもあります。

 しかし、パワハラ防止法の施行に向けて、ある会社では2年前から情シスも含めた全部門で定時退社を徹底しました。残業が多いという自社の実態を以前から社長自身も認識していたので、残業を完全撤廃することでパワハラ防止法に順守したのです。新型コロナウイルス感染症の拡大により、働き方改革への対応はさらに加速しました。

 「定時の就業時間が終了したら15分以内にタイムカードを押して退社しなければいけない」という会社のルールに、ひとり情シスも対応することになりました。過去の判例によると「30分程度は退社するための猶予時間である」とされています。しかし、30分の猶予時間を超えてしまう可能性があるということで、余裕を持って15分以内に退社するというルールに決めたそうです。定時終了の15分前から退社準備をすることも、その会社では容認しています。情シスというと残業が当たり前の職種ですが、すっかり隔世の感があります。

ゆとりあるひとり情シス

 先述の会社ではひとり情シスの環境も徐々に変えていきました。まず週に3日ほど派遣社員に入ってもらい、簡単なヘルプデスクの問い合わせやオフィスソフト系の操作説明、故障したPCの交換や取次などの業務に対応してもらうことにしたのです。その結果、今までと比べて多くの自由な時間をひとり情シスが獲得できた上に、ユーザー部門の満足度も向上しました。

 また、それまでのひとり情シスの残業や休日出勤の要因を分析して、一つずつ解消していきました。まず、サーバー機器をITベンダーのデータセンター内に移設して保守・運用を依頼することで、不測の事態への不安を消したのです。次に、事業継続計画(BCP)対策についてもITベンダーに構築を依頼しました。クラウドストレージを活用してバックアップ環境を整えるなどして、システムの継続を可能にしたのです。手順書も共同で準備しました。

 また、個別開発していた社内の基幹システムもパッケージソフトウェアを採用することで、ひとり情シスが関与していた仕様検討などの時間を大幅に削減しました。そのひとり情シスが空いた時間を使って過去の紙文書の読み込みをロボティクスプロセスオートメーション(RPA)と光学文字認識(OCR)で自動化した時には、実務メンバーにとても喜ばれたそうです。これが本来の情シスの仕事なのかもしれません。

 上記は守りのITから攻めのITに転じた好事例です。しかし、理解ある経営層と先立つIT予算がなければ、これは実現しません。経営層のマインドチェンジは簡単に起きることではないでしょう。しかし、パワハラ防止法をトリガーにして働き方改革をさらに進めることにより、「忙しいひとり情シス」から「ゆとりある情シス」に進化する、そしてこのゆとりが情シス担当者の定着率を高め、デジタル化を促して企業競争力の向上につながるのかもしれません。

清水博
清水博(しみず・ひろし)
一般社団法人 ひとり情シス協会
早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わり、米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のディレクターを歴任、ビジネスPC事業本部長。2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。2020年定年退職後、会社代表、社団法人代表理事、企業顧問、大学・ビジネススクールでの講師などに従事。「ひとり情シス」(東洋経済新報社)、「ひとり情シス列伝」(ひとり情シス協会出版)の著書のほか、ひとり情シス、デジタルトランスフォーメーション関連記事の連載多数。産学連携として、近畿大学CIO養成講座、関西学院大学ミニMBAコース、大阪府工業協会ひとり情シス大学1日コースを主宰。

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