PCやサーバーで激しい市場競争を繰り広げているDell Technologies(以下、Dell)とHewlett Packard Enterprise(以下、HPE)が、こぞってアズ・ア・サービスモデルのストック型ビジネスに注力している。従来のフロー型からビジネスモデルを転換する動きだが、移行する際に業績が落ち込むリスクをはらむ。両社ともサービスモデルの展開には意欲を見せるものの、業績に影響を及ぼさないようにしようという深謀遠慮も見て取れる。
Dellはビジネスモデル転換をどう考えているのか
「私たちは全て(の製品)をAPEXでサービスとして提供していく」
Dellの会長兼最高経営責任者(CEO)であるMichael Dell(マイケル・デル)氏は、同社の日本法人デル・テクノロジーズ(以下、デル)が先頃、都内ホテルで開催した自社イベント「Dell Technologies Forum 2022-Japan」の基調講演に寄せたビデオメッセージでこう強調した。(写真1)
(写真1)「APEX」について話すDell CEOのMichael Dell氏
「APEX」(エーペックス)とは、Dellが全ての製品をアズ・ア・サービスとして、ユーザーの利用に応じた継続課金の形で提供するサービス事業のことだ。その特徴についてはデルが「APEXバリュー」と題して公表している図1をご覧いただくとして、デル氏の冒頭のコメントがこの事業に対する同社の力の入れようを物語っている。
(図1)APEXバリュー(出典:デル・テクノロジーズ)
筆者がこのAPEXに注目したのは、Dellにとってビジネスモデルの転換につながる話だからだ。これまでの同社のビジネスモデルは製品の売り切りによって収益を上げるフロー型が中心だが、APEXは収益を継続的に得るストック型に転換しようというものだ。ストック型の方が安定した収益を上げられるようになるが、フロー型から移行すると販売時に一括した収益が上がらないため、業績が落ち込む可能性がある。さらに、移行したストック型ビジネスが伸びないと業績もそのまま低迷することになりかねない。
これはすなわち、ストック型ビジネスの典型であるクラウドサービスにおいても、従来パッケージを販売してきたソフトウェアベンダーがSaaSモデルに移行するのと同じ構図である。業績の落ち込みは、ソフトウェアベンダーの間で「クラウドの死の谷」とも言われて恐れられてきた。
そこで、今回のイベントを機に来日したDellの幹部二人が個別に開いた記者会見で、APEXによるビジネスモデルの転換について聞いてみた。
まず、インターナショナルマーケット プレジデントを務めるAongus Hegarty(アンガス・ヘガティー)氏に、「APEXへの移行で業績が落ち込む可能性があるのは織り込み済みか」と聞いたところ、「織り込み済みだ。APEXは順調な立ち上がりを見せており、スムーズに移行していけると確信している」とのこと。さらに、「全ての製品がAPEXの対象になるのはいつ頃か」と尋ねたところ、「数年先になるだろう。対象となった製品は順次公表していく」とのことだった。(写真2)
(写真2)記者会見で話すDellインターナショナルマーケット プレジデントのAongus Hegarty氏
もう一人、グローバル チーフテクノロジーオフィサー(CTO)のJohn Roese(ジョン・ローズ)氏は、APEXについて、「私たちの製品の提供形態における新たな選択肢と理解していただきたい。今後、私たちの製品がAPEXでしか使えなくなるのではなく、APEXでも使えるようになるということだ」と説明した。(写真3)
(写真3)記者会見で話すDellグローバルCTOのJohn Roese氏
両氏の発言にはAPEX推進に向けて温度差があるようにも聞こえるが、「数年先までに全ての製品をAPEXの対象にするが、あくまでも製品の提供形態における選択肢の一つ」とつなげれば違和感はない。