内製化でコストを6割以上削減--クレディセゾン・小野CTOが語る、DXの現在地点

大場みのり (編集部)

2022-11-14 16:12

 クレディセゾンは11月14日、同社のデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略の進ちょく状況と今後の計画について説明会を開催し、取締役 兼 専務執行役員 最高技術責任者(CTO) 最高情報責任者(CIO)の小野和俊氏が登壇した。

 クレディセゾンは2021年9月、同社の頭文字を取ったDX戦略「CSDX」を策定し、推進してきた。CSDXでは、顧客体験(CX)と従業員体験(EX)の両方を向上させることに重きを置いている。

取締役 兼 専務執行役員 CTO CIOの小野和俊氏(写真提供:クレディセゾン)
取締役 兼 専務執行役員 CTO CIOの小野和俊氏(写真提供:クレディセゾン)

 実店舗と提携するカード事業を中心に成長してきた同社は、ECなどのデジタルチャネルの普及に伴い、このままでは成長を維持できないという経営課題に直面した。小野氏は「突然デジタルと言い始めたわけではなく、必然的にデジタルと向き合わざるを得なかった」と振り返る。

 小野氏は、自身が2019年3月にセゾン情報システムズからクレディセゾンへ異動してから約3年半の間に成果を上げたデジタル化の取り組みを紹介した(図1)。例えば、開発の内製化を進めることで、外部の企業に委託した場合と比べてコストを61.8%削減した。また、クレジットカードの不正利用における未然防止率を2019年度の81.4%から2021年度には92.5%にまで向上させた。

図1:クレディセゾンが取り組んできたデジタル化 図1:クレディセゾンが取り組んできたデジタル化
※クリックすると拡大画像が見られます

 国内のクレジットカードの不正利用額は増加傾向にあり、2021年度は330億円近くに上る。小野氏は「お客さまにとっても、当社にとっても重要な課題」と認識し、一層対策に取り組んできたという。同社は「不正利用をする人が取る行動パターン」といった業界の知見をルール化してチェックするとともに、人工知能(AI)や深層学習に強いという企業・PKSHA Technologyと連携してモデルを作成。加えて、データサイエンティストのチームを社内に設置し、日々データの解析やモデルの改善、ルールの追加などを行っている。その結果、未然防止率の向上に加え、不正利用額も2021年11月には2020年1月と比べて4割近く削減できたという。

 デジタルを活用したイノベーションには、業務プロセスをデジタル化する「デジタイゼーション」、デジタルを前提として業務プロセスを見直す「デジタライゼーション」、ビジネスモデルそのものを変革する「DX」があり、「業種・業態、ビジネスのステージによってはDXのみが最適解であるとは限らない」と小野氏は強調する。同社は「ペイメント事業」「ファイナンス事業」「グローバル事業」を主要3事業として行っており、それぞれステージが違うという(図2)。

 ペイメント事業では、商材のクレジットカードがもともとデジタルの側面を持つことから、デジタライゼーションに注力。2022年夏に提供を開始したゴールドカード「SAISON GOLD Premium」の事業では、セゾンカードのユーザーに「プレミアムインビテーション」を送付し、カードの利用額や回数に応じて「ゴールドメーター」が100%になると「SAISON GOLD Premiumの年会費無料」などの特典を付与することで、ユーザーの高揚感や達成感につなげている。カードの入会後も利用内容に基づく特典を用意し、継続意欲の向上を図っている。

 住宅ローンなどのファイナンス事業では、紙ベースでのやりとりが業界全体として残っているため、まずはデジタイゼーションに取り組んでいる。住宅ローンの審査では申し込みから担当者による回答連絡までに1~2日かかっていたが、全ての審査工程をデジタル化することで最短30分にまで短縮した。これにより、顧客が審査の結果について心配する時間を短くするとともに、担当者の業務負担も軽減し、CXとEXの両方を改善したという。

 新規領域であるグローバル事業では、これまでの常識にとらわれる必要がないため、DXを推進している。インドでのデジタルレンディング(インターネット上での融資)事業では、共通プラットフォームとしてローンマネジメントシステムを開発し、同システムから収集されたフィンテック事業者の融資データを自社でのダイレクトマーケティングに活用している。「ゼロから始めているからこそ、ベスト中のベストの方法を採ることができる」と小野氏は語った。

 これらのデジタルを活用した取り組みには、デジタル人材が重要な要素となる。同社はデジタル人材について、エンジニアやデータサイエンティストなどのエキスパート「コアデジタル人材」、ビジネスとデジタル両方の知識を持ち、社内のデジタル化を推進する「ビジネスデジタル人材」、デジタルの知識を持ち、自身の業務に活用する「デジタルIT人材」の3階層に定義し、各層の人材を育成している。

 ビジネスデジタル人材の育成では、毎年社内公募を行い、2カ月間集中的に研修を実施する。応募者は、それまで人事や営業、コールセンターのオペレーターなどを行ってきた従業員。研修では、プログラミングの基礎知識、テストの自動化、データベースのチューニングなどを学習する。その後はチームに分かれて一つの課題に取り組み、実践を重ねた上で、新たな部門に配属される。

 「技術面だけを見るとコアデジタル人材の方が上回るが、ビジネスデジタル人材は業務知識や起きている課題、顧客や取引先の反応、部署のキーマンなど、あらゆる情報を持っている。これにより、“本当に望まれていて、効果のあるデジタル化”を行うことができる。『これじゃなかった』『これをやっても意味がなかった』といったことが起きにくい状態」と小野氏はアピールする。

 クレディセゾンは2022~2024年度の中期経営計画において、ペイメント/ファイナンス/グローバル事業をそれぞれ3割とし、残りの1割で新たな事業を行うとしている。2024年度には、「デジタル人材を合計で1000人創出」「クラウド活用率80%」「業務プロセスの完全デジタル化」「全社的なデータ基盤『セゾン・データプラットフォーム』の構築」を目指しているという。

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