本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、ZVC Japan 社長の佐賀文宣氏と、ヴィーム・ソフトウェア 執行役員社長の古舘正清氏の発言を紹介する。
「これからのコミュニケーションは体験や記憶を共有することが中心になる」
(ZVC Japan 社長の佐賀文宣氏)
ZVC Japan 社長の佐賀文宣氏
米Zoom Video Communication(以下、ZVC)の日本法人ZVC Japanは先頃、自社イベント「Zoomtopia 2022 Japan」をオンラインで開催した。冒頭の発言は、主催者として最初にスピーチした佐賀氏が今後のコミュニケーションの在り方について述べたものである。
同イベントでは「新しいコミュニケーションの世界へ」をテーマに、ZVCの最新ソリューションや顧客事例などが紹介されたが、ここでは佐賀氏の話が興味深かったのでその内容を取り上げたい。
「Zoomをはじめ、世の中のさまざまなテクノロジーは進化を続けているが、そうした中で注目すべきなのは、コミュニケーションの在り方が時代の変化に伴って生き物のように変わり続けていることだ。少し前まで対面以外でのコミュニケーションの中心は電話や電子メールだった。メールソフトで文面を作成して送信し、それをメールソフトで受けた側が内容を確認して文面をまた作成して返事をすると。しかし、こうしたやりとりは今、チャットやビデオを中心としたコミュニケーションに変貌を遂げている」
こう話した佐賀氏は、図1を示しながら「電子メールでよく見かけるこの文面だが、果たしてコミュニケーションとして機能しているテキストは何%くらいだろうか」と問いかけた。そして、図2を示した上で「このメールの内容、若い人たちの間では『了解』を意味する『り』の一文字で済むかもしれない」と説いた。要は、素早く意思を伝えるというのもコミュニケーションの進化と見て取れるわけだ。
図1:よく見かけるビジネスメールの例(出典:「Zoomtopia 2022 Japan」の講演資料)
図2:「了解」を意味する「り」の一文字(出典:「Zoomtopia 2022 Japan」の講演資料)
一方、Zoomに代表されるビデオコミュニケーションでは、「例えば、異なった場所にいる人たちがリモートでさまざまなドキュメントを見ながらミーティングをする際、リアルタイムにそれらを見ながらスピーディーに話を進めることができる」とも。
その上で、同氏は次のように語った。
「このようにチャットやビデオコミュニケーションが活発に使われるようになったのには、大きな要因が一つあると考えている。それは、ツールが発達したからではなく、チャットやビデオコミュニケーションという手法そのものが人間本来のコミュニケーションの原点に近いからだ。しばらくの間、先ほど述べた電子メールのように、ツールとフォーマットが先行して、人がそれに合わせてコミュニケーションを行っている時期があった。しかし、これからは人がもっと直感的に伝えることができるツールが選ばれて使われるようになっていくのではないかと、私は考えている」
さらに、こう続けた。
「これまでは知識を文章にして配布し、共有することが中心だったコミュニケーションが、これからは体験や記憶そのものを共有することが中心に変わっていく、もしくは戻っていくのではないか」
冒頭の発言は、このコメントから抜粋したものである。もちろん、Zoomの伝道師でもある佐賀氏の話はPRの思惑が込められているが、こうした時代の変化を見据えてコミュニケーションの在り方を改めて考えることも大事なことだろう。その意味で、佐賀氏の話は非常に興味深かった。