企業が対応すべき課題がビジネス以外にも広がり、そこでもテクノロジーが必要とされる現在。CIO(最高情報責任者)やIT部門の役割や期待も大きく変わってきている。これからの時代にCIOやIT部門はどうしていくべきだろうか。ZDNET Japanの人気連載「ITアナリストが知る日本企業のITの盲点」でアナリストとの対談を重ねてきたガートナージャパン エグゼクティブ プログラム グループ シニアアドバイザー エグゼクティブパートナーの長谷島眞時氏に尋ねた。
ソニーのCIOからガートナーのキーマンとして長年にわたり日本企業のITのリーダーたちをサポートしている長谷島氏は、現在と将来におけるCIOやIT部門の姿、ITマネジメントの在り方を語ってくれた(前編の記事)。後編の本稿では、CIOやIT部門が将来を担う次世代のためになすべきことを紹介する。
--これまで企業のITをけん引してきた世代は人数が多く、変化にマンパワーで対応することができたと思います。しかし現在の20~30代は、その上の世代より人口が少ない一方、テクノロジーをより自然に使いこなし、テクノロジーでさまざまな課題を解決したいという意欲も強いように感じます。将来の担い手となる現在の20~30代に向けて、どんなメッセージを伝えることができますか。
長谷島:すごく難しいですね(笑)。これまでのCIOがしてきたことは、問題主導型の仕事だったと思います。「本来こうあるべき」という姿になっていないものを本来あるべき姿に戻すというのが、これまでのITマネジメント、ITのリーダーに課せられた責務でした。今もそうかもしれません。例えば「2025年の崖」とは“課題”ではなく“問題”ですよね。「メインフレームをどうするか」も課題ではなく顕在化した問題なのです。私たちは、そういう問題化しているものを正常化することに翻弄(ほんろう)され、しかもそれぞれ解決するのが極めて難しい問題ばかりなのです。手を打っておかなくてはならない“課題”や、やりたい“夢や理想”みたいなものに注力できないというのが現状です。
今20~30代の人たちが担い手となる将来は、「解決されていない問題をどうするのか」ではなく「想定される課題に対してどう対応していくのか」というステップから始められるようにしたいですね。「想定される課題」とは、放っておくと問題になってしまうこと、いつまでも放っておくことができないことです。
ガートナージャパン エグゼクティブ プログラム シニアアドバイザー エグゼクティブパートナーの長谷島眞時氏。1976年にソニー入社し、Sony Electronicsで約10年にわたり米国や英国の事業を担当。2008年6月ソニー 業務執行役員シニアバイスプレジデントに就任し、同社のIT戦略を指揮した。2012年2月に退任後、2012年3月より現職
これらに対応するだけでも大変ですが、さらにその先にはビジョンや夢の実現がありますし、テクノロジーも今以上にビジネスの中に深く溶け込み、「ビジネス=テクノロジー」となっていくでしょう。そこでは「ビジネスとは何か?」が繰り返し問われ、「ビジネスとは、健全なビジョンを掲げて実現すること」、さらにビジョンの実現に当たっては、かなり多くの部分をテクノロジーが担うようになることが想定されます。
今の若い人たちがITの担い手になる将来は、そこが主戦場になるでしょうし、そうあってほしいと強く願います。ですから、今の現役世代が対応している問題や、既に想定されている課題を将来の担い手へ安易に先送りしてほしくないですね。