本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、ヴィーム・ソフトウェア 執行役員社長の古舘正清氏と、IIJ 代表取締役社長の勝栄二郎氏の「明言」を紹介する。
「今後はセキュリティベンダーとも連携してデータ保護に一層努めていきたい」
(ヴィーム・ソフトウェア 執行役員社長の古舘正清氏)
ヴィーム・ソフトウェア 執行役員社長の古舘正清氏
米Veeam Software(以下、Veeam)の日本法人であるヴィーム・ソフトウェアは先頃、2024年度(2024年12月期)の事業戦略について記者説明会を開いた。古舘氏の冒頭の発言はその会見で、従来のセキュリティベンダーとの関係性について聞いた筆者の質問に答えたものである。
会見の内容は関連記事をご覧いただくとして、ここでは冒頭の発言に注目したい。その前に、市場シェアをめぐる話について取り上げておきたい。
「Veeamはバックアップ&リカバリーソリューションにおいて、2022年度に世界シェアトップのマーケットリーダーとなった。日本ではまだナンバーワンになっていないが、激しく追い上げている。当社はグローバルですでに17年の歴史があるが、日本では活動を始めて6年なので、現状で世界と日本のランキングが異なるのはその活動期間の差だ。日本でも早ければ来年、遅くとも再来年までにはシェアトップになれると確信している」(図1)
(図1)Veeam Softwareのビジネス状況(出典:ヴィーム・ソフトウェアの会見資料)
古舘氏は会見の冒頭で、バックアップ&リカバリーソリューション市場での世界と日本のシェア争いについてこう力説した。
実は、同氏は毎年開いている事業戦略の会見で、必ずシェアについて触れる。発端は4年前の会見だ。その時の発言については、2020年3月6日掲載の本連載記事で『ヴィーム日本法人社長がバックアップ市場で“3年後にシェアトップ”宣言』と題して紹介した。それからすると、2023年に世界に続いて日本でもシェアトップになっているはずだが、その実現は少し後ろにずれ込んだようだ。
だが、ここで特筆しておきたいのは、この4年間、古舘氏は「シェアトップになる」と発信し続けることで社内外を勢いづかせようと、ビジネスのアクセルを懸命に踏み込んできた。その熱意が、今の日本法人の躍進につながっているというのが、これまで取材をしてきた筆者の実感だ。日本法人社長として6年活動してきた同氏は、「日本は6年連続でグローバル平均を大きく超える成長を遂げてきた。この市場成長の平均よりもおよそ5倍のスピードで伸長し続けている」と胸を張った。自信に満ちた表情が印象的だった。
さて、冒頭の発言に話を戻すと、会見の質疑応答で筆者は、「データ保護分野では、ヴィームのようにバックアップ&リカバリーに加えてセキュリティ機能もカバーする動きの一方で、従来のセキュリティベンダーもバックアップ&リカバリーベンダーとの連携を深めつつある。セキュリティとバックアップ&リカバリーを連携させて適用することで万全の対策が求められるようになってきたのは、とりわけランサムウェア対策のためだが、こうした動きは今後、ますます加速していきそうか。そして、これまではデータ保護といえばセキュリティベンダーに注目が集まりがちだったが、今後はバックアップ&リカバリーベンダーが主導権を握るようになるのか」と尋ねた。この分野のトレンドも含めて、セキュリティベンダーとバックアップ&リカバリーベンダーの関係性について、古舘氏がどう見ているかを聞きたかったからだ。
これに対し、同氏は「当社も含めてバックアップ&リカバリーベンダーでセキュリティ領域を全てカバーしているところはない。従って、両者の連携は今後一段と深まっていくだろう。当社もさまざまなセキュリティベンダーと連携しながら、データ保護のトータルソリューションを提供していく姿勢だ」と答えた。「その関係は対等か」と踏み込んで聞いたところ、「対等だ」と返ってきた。興味深いやりとりだった。
この分野のトレンドと合わせ、古舘氏の熱い経営手腕に引き続き注目していきたい。