近年、人工知能(AI)と機械学習(ML)の発展により、ビジネスのあらゆる領域で大きな変革が起こっています。人事の分野でも、採用、育成、エンゲージメント向上などさまざまな場面でAIやMLの活用が進んでいます。一方で、導入が進まない企業も少なくありません。その背景には、従業員とリーダー層の考えのギャップが存在するのかもしれません。本記事では、人事部門におけるAIのユースケースと、Workdayの調査によって明らかになったAI活用に対する各層の考え方の違いについて探っていきます。
AIに関する認識のギャップが調査によって明らかに
Workdayの委託によりForrester Consultingが実施した調査「職場におけるAIへの人間中心のアプローチ」では、世界中の従業員1340人とテクノロジー関連の意思決定者1124人を対象に、「人事におけるAIの活用」に関する考えを尋ねました。
本調査で取り上げた「人事におけるAIの活用」のユースケースには、以下のようなものが挙げられます。
- 生成AIを活用した対話型エクスペリエンス:欲しい情報を探し出す際に、AIによる対話型のエクスペリエンスを活用する。
- 候補者のマッチング:求人情報やプロジェクトの機会に対して、AIを使用して候補者情報と照らし合わせ、精度の高いマッチングを実現する。
- 社内でのギグやジョブマッチング:社内でのギグ(短期的な業務)や内部向けの公募に対して、組織内で適したスキルを持つ候補者が応募できるようマッチングする。
- AIによる能力開発支援:今あるスキル情報をもとに、従業員が今後身につけるべきスキルやラーニングの機会をレコメンドし、スキル開発に向けたプランを策定・ガイドする。
- AI主導のキャリアパス:一人一人に合わせた仕事の特性・キャリアパスの提案や、キャリアアップの機会のレコメンドを行う。
これらのユースケースは、現時点ではまだ導入の初期段階にありますが、近い将来には活用が広がっていくでしょう。今回の調査の結果では、こうした人事におけるAI活用において、従業員とリーダー層の間に認識の違いが見られることが明らかになりました。この認識のギャップは、AIの効果的な導入を進める上で、重要な示唆を与えてくれるはずです。
リーダー層が考えている以上に従業員のAIへの期待値は高い
調査ではまず、従業員のAIに対する期待値が、リーダー層の認識よりもはるかに高いことが分かりました。全体の73%の従業員が、会社にはAI導入をさらに検討してほしいと回答した一方で、従業員が職場でのAI活用に期待していると考えているリーダーはわずか31%にとどまったのです。
この結果は、従業員がAIに前向きであるにもかかわらず、リーダー層がそれを十分に認識できていない実態を浮き彫りにしています。AIへの期待は従業員の間で着実に高まっているにも関わらず、リーダー層の意識はそれに追い付いていないのが現状なのです。
このギャップを放置することは、AIの導入を進める上で大きな障壁となる可能性があります。期待が高まっている以上、それに応えられなければ、従業員のモチベーションの低下や不満の増大を招きかねません。リーダー層には、従業員の声に真摯(しんし)に耳を傾け、求められていることを適切に捉えることが求められます。
AIに対する従業員の期待と不安
従業員はAIに大きな可能性を感じている一方で、現実的な不安も抱えていることも明らかになりました。AIによって情報へのアクセスが容易になることや、生産性の向上が期待できることについては、従業員の7割以上が肯定的に捉えています。日々の業務の効率化や、意思決定の迅速化など、AIのメリットを実感する層は確実に存在しています。
しかし同時に、AIがもたらすリスクについても無視できない懸念が示されました。約70%の従業員が個人データの使用について懸念を持っており、53%は職を奪われるのではないかと不安に感じています。
こうした期待と不安が混在する状況は、AIに対する従業員の複雑な心理を表しているといえるでしょう。メリットを感じる一方で、リスクが拭いきれず、AIを全面的に受け入れることに二の足を踏んでいる従業員層が一定数存在するのです。
リーダー層がこの点を看過してしまうと、AIの導入が想定通りに進まない事態を招く恐れがあります。従業員の不安に真摯に向き合い、それを解消する努力を怠れば、AIに対する反発が強まり、円滑な運用が困難になるかもしれません。期待値の高さに十分に応えるためにも、不安の解消に向けて、組織にはより一層の注意と努力が求められるでしょう。
AIに関するギャップを埋めるために必要なこと
ここまで述べてきた従業員とリーダーの間に見られる認識のギャップを埋めることこそが、AIの効果的な活用につながる第一歩だといえます。それでは、どうしたら効果的にギャップを埋めることができるのでしょうか。そのためにリーダー層が取り組むべきポイントとして、以下の3点が挙げられます。