デジタルが浸透し、AIが前提となる時代においては、イノベーションによる新たな価値創出に向けて環境を整備し、組織能力を向上させることが期待されます。このような時代に求められる組織デザインを考えるに当たって、参考になる組織モデルとして社内DAOの可能性について考えます。
AIが前提となる時代に求められる組織
技術革新が著しく不確実性が高い時代においては、多様な知識や能力を持った社内外の複数の人材が知恵を持ち寄り、互いに意見をぶつけ合いながらアイデアを創出し、実現に向けてイノベーションの種を育てていくことが求められます。本連載の前回「AIコンバージェンスに適合した組織モデル--DAOの考え方を応用した組織変革」では、このような時代において、イノベーションの創出を促進する組織運営の選択肢としてクラスター型組織が考えられますが、その実現にはブロックチェーン上で管理・運営される分散型自律組織(DAO:Decentralized Autonomous Organization)の考え方を取り入れることが有効であると述べました。
DAOは、もともとは暗号資産のビットコインの仕組みを踏襲した組織デザインのモデルであり、次世代型インターネット「Web3」を見据えた組織形態として注目されています。特定の所有者や管理者が存在せずとも、事業やプロジェクトを推進できる組織であり、インターネットを介して参加者が主体的に共同管理・運営していく組織を指します。
一方、DAOは、単一または少数の目的を持つ継続型もしくはプロジェクト型の事業運営には向いていますが、複合的な目的と既存の運営プロセスを持つ従来の企業組織をDAOに作り替えることは非常に困難と言われています。そこで、ITRでは将来に向けた組織変革の第一歩として、まずはデジタル技術を活用した新規価値創出を目指すプロジェクトや、DXによる組織カルチャーの変革に取り組む組織のような、単一の明確な目的を持つチームの運営に、DAOの考え方を取り入れた「社内DAO」を創設することを推奨しています。例えば、生成AIの全社展開に向けた試行的導入プロジェクトなどで、メンバーのノウハウを共有しつつ、課題抽出および対処法の検討を行うような場面で、社内DAOを活用することが考えられます。
社内DAOとは
社内DAOとは、企業内の特定のプロジェクトや組織にDAOの考え方を取り入れた特区を設け、従来の組織から独立した運営を行う形態を指しています。元来のDAOの特徴は、基本的にフラットで上下関係はなく、誰でも平等に参加できるものです。従来組織のような組織の管理者は存在せず、意思決定は参加者の投票や合議によって行われるため、民主性と透明性が高いとされます。全ての参加者の活動履歴は公開され、全員に共有されるのも特徴です。また、そこで得られた利益は、参加者に報酬として分配されますが、報酬は貢献度に応じて細かく設定することができます。社内DAOは、この特徴を取り入れ、特定のプロジェクトや組織に動機づけと自律性を持たせるものといえます(図1)。

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既に幾つかの大手企業で、社内の人材交流やコミュニケーションの活性化を目指した社内DAOを立ち上げた事例が報告されています。大手運輸会社では、業務における悩みを相談したり、職場の課題解決のアイデアを交換したりする、情報共有のためのコミュニティーとして社内DAOを立ち上げています。大手製薬会社では、ヘルスケア分野でのWeb3の実現を目指して、患者同士のつながりをサポートするDAOや、研究者間のコラボレーションやアイデア創発を目指すDAOなどを立ち上げる構想を発表しています。また大手損保会社では、新卒者採用にインスタントメッセージツールを活用し、参加メンバーの活動に対する「いいね!」の数で貢献度を評価するDAO型採用を実施しています。