技術者視点で見るメインフレームの進化と深化

第4回:次世代メインフレームにおけるモダナイゼーション新技術

山下文彦,麻生亮,大久保翔太郎 (キンドリルジャパン)

2025-03-10 06:00

 これまで、メインフレームがいかに貢献しているか、今後の展望、新たなプラットフォームへの移行に伴う課題について、事例とポイントを解説してきました。今回は、次世代システムを支える運用モダナイゼーションとアプリケーションモダナイゼーション、の最新トレンドについて紹介します。

1.次世代システムを支える運用モダナイゼーション

Ansibleによるメインフレーム運用自動化

 メインフレーム運用のモダナイゼーションにおいて、「Ansible」を活用したインフラ運用の自動化は、有効なアプローチの一つです。Ansibleは、Infrastructure as Code(IaC)の概念に基づき、インフラ構築・運用の自動化を実現する強力なオープンソースツールです。特に分散系システムでは、サーバー構築や設定作業の自動化におけるデファクトスタンダードとしての地位を確立しています。

 近年、Ansibleから「z/OSコレクション」が登場し、メインフレーム上のデータセット操作やジョブ実行が容易になりました。これにより、ウェブベースの分散系システムやクラウド環境とメインフレームをシームレスに連携できるようになり、メインフレーム運用の自動化が大きく進展しています。

 具体的な事例として、依頼作業の自動化があります。これまでユーザーIDの作成やデータベースのテーブル作成といった作業は、ユーザー部門やアプリケーション部門からのリクエストを受け、ITインフラの運用部門が手作業で対応していました。この作業には、「リクエストの受付」「作業の準備」「実施」「完了報告」といった複数のプロセスが含まれ、メインフレームとITサービス管理(ITSM)ツール上で、人手による連携と人手による操作により実現されていました。

 これら定型プロセスには、作業の連続性と効率化に課題があることが多く、自動化による効果が非常に大きい領域です。例えば、ITSMツールなどのフロントエンドアプリケーションで受け取ったリクエストをAnsibleに連携し、リクエストに応じた操作をメインフレームに対して実行することで、作業時間の大幅な短縮、ヒューマンエラーの削減、運用コストの削減といった効果を期待できます。

 また、Ansibleは分散系とメインフレームをつなぐコントロールポイントとしても機能するため、依頼作業の自動化だけでなく、ITインフラ運用におけるさまざまな役割を担うことができます。メインフレーム上の定常業務の自動化や、監視ツールと連携した障害対応の自動化など、Ansibleを中心に据えてメインフレームの運用を行う世界がやってきています。

メインフレームでのオブザーバビリティとAI活用

 近年のITインフラは、クラウドネイティブ技術(コンテナー、マイクロサービス、サーバーレスなど)の導入や、オンプレミス、クラウド、エッジなど複数の環境を組み合わせたハイブリッドシステムの普及により、劇的に複雑化しています。従来のモニタリング(監視)は複雑化したシステムに対応できず、オブザーバビリティ(可観測性)を実現することが非常に重要になってきました。

 メインフレームにおいても、オブザーバビリティを実現する製品・ツールと連携することで、ハイブリッドシステムにおけるさまざまな課題を解決することができます。例えば、分散系やクラウドとメインフレームをまたがるようなアプリケーションは、全体像を把握することが非常に難しいのですが、オブザーバビリティ製品ではプラットフォームをまたいで異なる環境を統合的に把握できるため、複雑なトランザクションフローを可視化するだけでなく、特定の問題に対してのボトルネック箇所の特定やパフォーマンス改善に役立ちます。

 また、「System Management Facilities」(SMF)に代表されるメインフレームが持つメトリクスデータをオブザーバビリティ製品に連携することで、統計的な情報を瞬時に把握することも可能です。例えば、特定のバッチ処理やトランザクションの実行実績を瞬時に把握できると、メインフレームの開発・運用のさまざまな局面において大きな助けになるでしょう。

 AIの普及・発展により、オブザーバビリティの分野はさらに進化しています。オブザーバビリティ製品が収集したデータがAIの学習データとして活用され、AIはオブザーバビリティの分析能力を向上させる役割を担うことで、相乗効果をもたらします。

 例えば、キンドリルは「Kyndryl Bridge」というAIOpsソリューションを展開しています。メインフレームのログデータやメトリクスデータをAIOpsプラットフォームに連携することで、AIを活用した異常検知、運用高度化・自動化のためのヒント(Insights)を提供します。今後メインフレーム技術者の減少が予想される中、熟練技術者の経験に頼っていた部分をAIが補完する役割を担うことで、継続的な運用改善につなげることが可能です。

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